文章♯

□レモンイエロー
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サザナミタウンの一角にある別荘。カトレアちゃん名義のその建物は、彼女の友達なら自由に使っていいことになっている。

スワンナに連れてきてもらって別荘に足を踏み入れると、広いリビングダイニングには先客の姿。

「あら、フウロ。いらっしゃい」

「こんにちはー」

ダイニングで本を読んでいた美女は、シロナさん。

一年の半分をそこで過ごしているシロナさんは、ほとんど所有者のように振る舞っている。
これはカトレアちゃんが気にしてないので、アタシも気にしないことにしている。

「シロナさん。カミツレちゃん、来てませんか? ここで会う約束してるんですけど…」

「カミツレならあっちよ」

指し示されたのは、テレビの前のソファー。
そこに横たわっているのは、紛れもなくお目当ての女性だった。

「カミツレちゃーん。…あれ?」

近寄ってみると、カミツレちゃんはぐっすりと眠っていた。
しゃがんで、その顔を覗き込む。

…疲れた顔、してる。

「来て十分くらいだったかしら、コーヒー飲む?って聞いたら飲む、って言うからコーヒー淹れたんだけどね、その間に寝ちゃってたの」

シロナさんがコーヒーをまだ飲んでいるところを見ると、そんなに時間は経ってないようだ。
でも、こうして普通の音量で会話してても目を覚ます気配はない。

「そう言えば、最近忙しいって言ってたなぁ…」

ジムリーダーとモデルを兼業しているカミツレちゃん。
ジムでの仕事に支障が出ないようにはなってるらしいけど、たまに撮影が立て込んじゃうときもあるって言ってた。

すべすべの頬をつついてみても、ぴくりともしない。

「もうっ。こんな爆睡しちゃうほど疲れてるんだったら、断ってくれて良かったのに」

誘ったのはアタシからだった。
会いたくなって連絡したら、午後なら空いてるって言うから、約束を取りつけた。

職業柄なのか、カミツレちゃんは疲れてたりへこんだりしてても、それをあまり表に出さない。
だから、アタシが気付いてあげなきゃいけないのに。

そんなことを考えていると、シロナさんの声が聞こえた。

「疲れてても、フウロに会いたかったんでしょう」

だってカミツレったら、眠そうなのに頑張って起きてようとしてたから。

って微笑むから、思わずまじまじとカミツレちゃんを見つめてしまった。

そうなの?
カミツレちゃんも、会いたいって思ってくれたの?

それだけで気分が上向きになっちゃうアタシって現金だなって思うけど、しょうがないよね。嬉しいんだもん。

「お疲れさま、カミツレちゃん」

カミツレちゃんの髪をそっと撫でて、腰をあげた。

自然に目が覚めるまで、このまま寝かせといてあげよう。
そして、起きたらこう言うんだ。

おはよう、カミツレちゃん。
お疲れさま。
だいすきだよ。

彼女に毛布をかけてあげながら、アタシは意図せず笑顔になっていた。



END




疲れていても、疲れてるからこそ、あなたに会いたい。


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