文章♯

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タワーオブヘブン。
死したポケモンの魂を鎮めるというこの塔の最上階で、俺は風を受けていた。
ここは空気も澄んでいるかのように感じるから不思議だ。

誰もいないのをいいことに、手持ちのポケモンを全員出してみた。
エンブオー、エルフーン、ランクルス、ルカリオ、ビクティニ、そしてゼクロム。
思い思いに過ごしている彼らを見やってから、空を見上げた。


――Nが飛び去ってから、一年が経っていた。


騒動が収束して一旦家に戻った俺は、また旅に出た。
行ってなかった地方を回って、新しい仲間を増やして。
そして先日、殿堂入りを果たした。
一応チャンピオンという肩書きはもらったけど、リーグチャンプの座は丁重にお断りして、旅を続けている。

そして今日は、何となくここの鐘の音が聞きたくなって、やって来たのだ。

視線を戻すと、ビクティニとエルフーンが鐘を興味深げに見つめていた。
衝き方を教えてやると、二匹で頑張って鳴らしたが、小さな音にしかならなかった。
彼らの落胆ぶりがおかしくて手伝ってやろうとすると、いつの間にか他のポケモンも集まってきていた。

「よし、じゃあ皆で鳴らそう」

ポケモン達が嬉しそうに声をあげる。
体の大きさのせいでゼクロムは一緒に出来ないけど、気持ちはひとつだ。


――ガラーン……ガラーン……


少し物悲しげな音色が響き渡る。
そう感じるのは、俺が寂しさを感じているからだろうか。

「N……今、どこにいるんだろう」

呟いたとき、ふとゼクロムが空を見上げて鳴いた。
何かを見つけたかのように、一点を見つめている。

「ゼクロム?」

その視線を追って同じ方向を見ると、遠くに赤い光が灯った。

(え…?)

光はどんどん近づいて、やがて白いドラゴンの形になる。

(まさか…っ!)

風を巻き起こしながら降りてきたドラゴンポケモン――レシラム。
その背から降り立ったのは、まさしく俺が焦がれていた、若草色の青年で。

「やあ、トウヤ。久しぶり、だね」

変わらないその姿、その声。
俺は一も二もなく駆け出していた。


「N…っ!!」


勢いのまま抱きつくと、うわっ、と声を洩らしながらも受け止めてくれた。

視界の端では、ゼクロムとレシラムが首を擦り付けあって、再会の喜びを表現している。
俺のポケモン達もそこに駆けつけていた。

「どこに行ってたんだ…?」

「いろいろ。一番長く滞在したのはジョウト地方だったけど、他のところも見て回ったよ」

「そっか。俺も、旅をしてたよ。チャンピオンにも、なった」

「夢、叶ったんだね」

「…うん」

これが夢ではないことを信じたくて、Nをさらに強く抱きしめる。
するとNが抱きしめ返してくれて、うっかり涙が出そうになった。


会いたかった。会いたかったんだ。


頭をNの肩に擦り付けると、ふふ、と笑う気配を感じた。

「あのね、トウヤに会いたくって、飛んできたんだよ」

俺と同じこと、考えてくれたんだ。
「うん」とだけ返して、顔をあげた。

「そうしたら呼んでるみたいな鐘の音が聞こえたから、あの子に聞いてみたらここにキミがいるって」

「あの子?」

Nが向いた方向を見ると、レシラムの背からひょこん、とポケモンが顔を出した。

「えっ、ジラーチ…!?」

「うん。ホウエン地方で会ってね、トモダチになったんだ」

確かジラーチはホウエンで幻のポケモンと伝えられていて、人の前には姿を現さなかったはず。
そんなポケモンが仲間になるなんて……。Nの中の何かを感じとったのだろうか?

ジラーチはふわりと宙に浮いて、Nの肩に降り立った。
頬を擦り付ける仕草が何とも微笑ましい。

「N」

「ん?」

くすぐったそうに微笑っていたNが、小首を傾げる。
…ずっと言いたかった言葉が、やっと言える。

「おかえり」

一拍の後にその顔に広がったのは、一年前には見ることの出来なかった、満面の笑みだった。

「ただいま!」



END




うちの主Nの再会はこんな感じ。
「おかえり」ネタは、もう何番煎じかわからないくらいのネタだと思うんですが、それだけみんなが言いたい台詞なんだってことですよね。

ジラーチは趣味です。というか好きなんです。
エスパーだしちょうどいいかと思って。(なにが)


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