文章♯

□沈む月の上で
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「いたいよ、アニス」

アリエッタの声はちゃんと聞こえていたけれど、私は返事もしなかったし、華奢な腕を捕まえた手の力を緩めることもしなかった。

「アニス…?」

アリエッタは身動きひとつしない。痛いから放して、と口で言うだけ。

――錯覚しそうになる、から、ねえ。

アリエッタ、嫌なら逃げてよ。私の手を振り払って逃げて。
そうじゃなきゃ。

「アニス…泣いてるの?」

「…泣いてないよ」

俯いたままの私が心配になったらしい。声にこちらを伺うような響きが混じる。
顔をあげて(彼女の目は見られないけど)、涙が伝っていないことを教えると、アリエッタは安堵の息を吐いた。

――本当に、勘違いしちゃいそうだよ―。

喉が震える。ことばにしてしまいたいと、切望する。
こちらを伺う瞳のなかに、自分と同じいろを探そうとして…やめた。

わかってる。
アリエッタが私をそういう対象として、見ていないことくらい。
それでも…ああ、それでも。

「…アリエッタ、」

「なに?」

「私、あんたが……すきだよ」

アリエッタが戸惑って息を呑む。…ああ、わかってたのに。

縋るように掴んでいた手は、どうすることも出来ずに、結局アリエッタを放せなかった。


(はやく、はやく私を、)




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タイトル提供元:joy


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