文章♯
□Moon in the Blue sky
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コレットさんは、青空みたいなひとだと思う。
それなら私は、その中でたゆたう雲になりたい。
それだけで、よかったの。
Moon in the Blue sky
一面、桃色の花が咲いていた。
ここはルインから少し離れた所にある丘の上。
滅多に人が来ないのか、自然がそのまま残されている。
今日は自由行動ということになったので、コレットがプレセアを誘って散歩に出てきたところで、この場所を見つけたのだ。
思いがけず見つけたこの宝物を、二人は大層気に入った。
花冠を作ったりして、ひとしきり堪能した後、花の絨毯に寝転がった。
しばらくの間は心地よい沈黙の中でたゆたっていたが、ふいにコレットが口を開いた。
「プレセアって、お月様みたいだよね」
「お月様…?」
「うん!綺麗で、皆を温かく見守ってるお月様」
「私が、月…」
そういうコレットに悪意はうかがえない。
わかってはいるのだ、褒められていることくらい。
――でも。
プレセアはぐっと唇を噛んだ。
それでは、私はコレットさんと一緒にいられない――。
プレセアを見ていたコレットの青い目が、驚きに見開かれた。
どうしたんだろう、と思う間も無く、プレセアの頬を生温かい雫が伝った。
目の前にはコレットの焦った顔。
あぁ、自分は泣いているのだ、とぼんやり思った。
「え、プレセア!?どうしたの?」
嫌だった?ごめんね、と謝るコレットに、プレセアは首を横に振った。
「違うんです。コレットさんが悪いんじゃありません…」
コレットの瞳が先を促す。
…あんまり子供っぽい理由だから、可能なら黙っていようと思っていたのだが…どうも彼女の眼には弱い。
「…コレットさんは、私を月みたいだと言いましたね。私は、コレットさんを青空みたいだと思っていたんです。…月と青空は、同じ時間には出ませんよね」
話している間にも、涙は勝手に流れていく。
そこまでショックだったのか、とプレセアは他人事みたいに思った。
「私が月だったら、コレットさんと一緒に、いられない…ッ」
子供みたいなことを言っていると、わかっている。もしかしたらコレットさんは呆れているかもしれない。
でも、そのことがどうしようもなく悲しい――。
プレセアが泣きやめずにいると、コレットがプレセアの小さな体をふわりと抱きしめた。
コレットからは、ほんのり温かな日溜まりの匂いがした。
「コレットさん…?」
「それは違うよ、プレセア。私が空なら、プレセアとずっと一緒にいられる。知ってる?お月様ってね、昼間も空にいるんだよ。見えないだけ」
呆然としているプレセアに、コレットはにっこりと微笑む。
それは、さながら青空で輝く太陽のような笑みであった。
「それにね、空は色を変えてお月様を見守ってるんだよ。白くなっても黒くなっても、いつだって空はそこにある。ね、いつでも一緒、だよ?」
「……はい…!」
それは真理であったけれど、今のプレセアには何より嬉しい言葉で。
止まっていた涙が、また溢れ出してしまったのだった。
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そのまま腕の中で眠ってしまったプレセアを、コレットは優しく見つめていた。
「どこにも行かないよ。私はずっとプレセアの傍にいる」
暖かい腕の中で、少女の顔は幸せそうに綻んだ。
END
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