文章♯

□幸せのかたち
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夢を見た。
大好きな彼の夢を。

嬉しいはずなのに、あんまり嬉しくなくて、それどころか、心に残ったのはどうしようもない胸騒ぎ。
夢なのに、現実のようなのだ。

まるで、何かを暗示しているかのようだった。



――冷たい雨の中、血まみれで、涙を流して
ただ、立ち尽くしている

漆黒の髪は濡れて白い肌に張りつき
紫水晶の瞳は、何も映していなかった

その姿はどこか寂しげで、とても儚くて
どうしても、助けてあげたかったんだ

傷ついた彼を――





幸せのかたち





「ジューダス!!」

覚醒と同時に、隣のベッドで眠っているはずの少年の名を叫んでいた。
無意識に、だ。
外はまだ薄暗く、まだ目覚める必要のない時刻であることを示していた。


――先程の夢はまだ鮮明に覚えている。

カイルの体は、まるで他人の体のように全く動かなかった。
かろうじて唇だけは動いたが、声は出ず、吐息だけが漏れた。
そうこうしている間に、少年はこちらに背を向けて、歩きだしてしまった。

駆け寄りたくても足が動かない。
抱きしめたくても腕が動かない。
引き留めたくても声が出ない。

――そして少年の姿が見えなくなったとき、夢は途切れた。


夢の中とはいえ、何も出来なかった自分がひどくもどかしい。
カイルはむくりと上体を起こして、毛布を握りしめた。その時だ。

「…カイル?どうした?」

「え、あ、ジューダス…」

もともと眠りの浅いジューダスは、どうやらカイルの一連の動きで目を覚ましてしまったようだ。

「ゴメン、起こしちゃった…?」

「構わん。だが珍しいな。お前がこんな時間に起きるとは…」

雨が降るな、と皮肉る様はいつもの彼だ。
やはり、夢は夢なのか。
今も残っている胸騒ぎを振り払うように、カイルはジューダスに笑いかけた。

「本当にゴメンね?まだ寝てていいから」

「……お前は寝ないのか?」

普段冷たい態度を取りがちな彼だが、本当はとても優しいのだと、カイルは知っていた。
他の皆も薄々気づいてはいるのだろうけど。

「うん、なんかもう眠れそうにないんだ」

「そうか」

カイルの言葉に、ジューダスは起き上がり、ベッドを抜けた。

「え、え?どうしたの、ジューダス?」

何の断りもなくカイルのベッドに腰掛けたジューダスに、少々面食らってしまった。

「僕もこんな時間に起こされて目が冴えたんだ」

「ぅ…だからゴメンって〜」

情けない声を出しつつも、頬が緩むのは抑えられなかった。

突然起こされたからといっても、旅をしている身だ。毎日の戦闘で体に疲労が溜まっているのだから、目が冴えるわけがない。
彼なりに、眠れないカイルの相手をしてくれようとしているのだ。

「ジューダス…ありがと」

「………ふん」

それから皆が起きだしてくるまで、二人は言葉を交わしていたのだった。



何気ない会話の中で、ジューダスがふとした瞬間に見せた暗い表情を、カイルは見逃していなかった。



TO BE CONTINED...?



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