文章♯
□優しさの定義
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君が好きだよ。
だから、守らせて?
優しさの定義
「ヴェイグ、入るぜー」
両手で持っていた物を一旦片手で持って、コンコン、と軽快な音をたててからドアを開ける。
銀髪の青年は、ベッドの上で苦しそうに息をしていた。
ここは宿屋の一室。ティトレイとヴェイグに割り当てられた部屋だ。
普通ならノックはいらないはずだが、これにはわけがある。
ヴェイグが倒れたのだ。
宿屋に着いた途端、糸が切れたマリオネットのように床にくずおれた彼の額は燃えるように熱く、相当無理をしていたのだろうことは容易に知れた。
彼のことだ、皆に心配させまいと考えたのだろう。
それは彼のいいところであるのだが、同時に悪いところでもあると、ティトレイは思っている。
「ぅ…ティトレイ…?」
「あ、寝てろって。まだ熱あるんだろ?」
半身を起こそうとしたヴェイグを言葉で制し、持っていた物――粥の入った器をベッドのサイドテーブルに置いた。
「ほら、ティトレイ特製玉子粥、作ってきたぜ。たくさん食って、早く元気になれよ?」
「…すまない」
「ヴェイグ、こういう時は“ありがとう”って言うもんだ、って言ったろ?」
「ぁ、う…ありがとう…」
それを聞いたティトレイはにこりと笑って、ヴェイグの頭をくしゃくしゃと撫でた。
いつもなら振り払われたり赤面されたりするところなのだが、熱のせいでうまく頭が働かないらしく、されるがままになっていた。
(ああ、やっぱり結構あるな…)
こんな状態でよく外を歩いていられたものだと思う。ましてや、具合の悪い素振りも見せなかったのだから。
「ほら、もう寝とけ。熱下がんないぞ」
「だが、粥が…」
「こんなもんまた温めればいいんだからさ。気にしないで横になってろ」
「ああ、すまない…」
そう言って、ヴェイグはことりと眠りに落ちた。
いつだって、この青年は我慢の限界を越えたとしても口には出さないのだ。一言『気分が悪い』と言えばいくらだって休息の時間をつくるのに。
仲間に迷惑をかけたくない一心で、彼はそれを口にしないのだ。
それを仲間思い、と言うのかもしれないが、もっとこちらを頼ってほしいと思う。ましてや自分達は。
「恋人同士、なんだからさー…」
呟いた言葉は眠ってしまったヴェイグに聞こえることは無かった。聞こえたところで、きっと何のことだがわからなかっただろうし、聞かせる気もなかった。
そういう“仲間思い”なところは直らなくたっていいのだ。それはこちらがフォローすればいいだけなのだから。勿論察してあげられれば、それが最善なのだが。
それでも。
「頼ったって、いいんだからな」
願うように、言わずにはいられなかった。
END?
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