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□例えばこんな一日
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眼下の街中を、赤髪の少年が歩いていく。その隣には、いつも少年が護衛として連れている緑髪の少年。――ロイと、ウォルトだ。
彼らは仲睦まじく、短い休息を楽しんでいた。時折ロイが何事かを囁いて、二人で笑っている姿など、到底戦に参加する者には見えないくらいだった。その証拠に、花の水やりをしていた婦人が、二人を見て微笑ましげに目を細めている。
(あれが、二人の自然な姿なんだろうな)
そんな光景を眺めていた少年、チャドは、自分の膝の上に乗っているレイの頭を優しい手付きで撫でる。彼はそれに応えるかのように、瞳をひとつ瞬かせた。
立ち寄った小さな街で、ロイから軍に身を寄せる全員に、1日の休暇が与えられた。このところ戦いが続いていたので、息抜きが必要だと考えたのだろう。
その休息を、チャドは小高い丘の上の木陰で、恋人とゆったり過ごしている。彼は相変わらず、チャドといるにも関わらず難しい本を読んでいるが、チャドの膝枕に甘んじていたり、髪を撫でても怒らなかったりするあたり、彼なりに甘えている、のだと思う。
その行動の真意がどうであれ、些細なことが嬉しいと感じるくらいには、チャドはレイのことが好きだ。
「チャド、ぼんやりしてどうしたんだよ?」
「ん? ああ、ロイさま達が見えたから、なんとなく眺めてた」
「ふーん…」
レイが他人にあまり興味を示さないのは知っていたから、気のない返事が返ってきても、チャドは気にしなかった。
代わりに翡翠を覗き込んで、額に唇を落としてやる。
「…オレのこと、見ててくれたんだな」
「、な…!」
レイの頬は一瞬で紅潮し、目を背けてしまう。
しかしその仕草こそが、チャドの言葉が真実だと教えていた。
(かわいいなあ)
思わず頬を綻ばせれば、僅かに潤んだ一対がチャドを睨みつける。
「…なに笑ってるんだよ」
「気のせいだよ」
「別に、意識して見てたわけじゃないぞっ」
「はいはい」
もうレイが何を言おうと、チャドには可愛いとしか思えない。だって他人が何をしていようとあまり気にしない彼が、自分のことは気に掛けていてくれる、なんて。
先ほどまでは髪を撫でていた手が、頬に移動する。
「チャド」
「ああ、わかったから。機嫌なおせよ」
ちゅ、と音を立てて口付ける。だまされないぞ、とばかりに眦を吊り上げていたレイだが、何度か触れては離しを繰り返すうちにとろんとした表情になった。
こうされるのが好きだということは知っていたし、チャド自身もレイにキスするのは好きだ。だから理に適ってる、なんて考えて、内心で笑みを零した。
「……お前、ずるい」
そんな顔で言われても、可愛いだけだぞ、とは口に出さず。
チャドは再び、レイの唇を塞いだ。
見ていたのは、大樹だけ。
END
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