おだい

□5のお題(恋)
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01.好き


彼は何かにつけて、ボクのことを好きだと言う。
髪が好き、瞳が好き、声が好き、手が好き、黒子っちが好き。
彼からの『好き』は、絶えることがない。

べつに。ボクたちは付き合っているわけだから、不自然なことではないんだけれど。
彼からの『好き』を受け取るたび、心の中にもやもやが生まれるのは、たぶん。

「…キミは、ボクに不満とか無いんですか?」

「不満? あるわけないじゃないっスか!」

即答だった。それは嬉しいことなのだけれど、求めていたものとは違う。

「も、もしかして、黒子っちはあるんスか?」

途端に不安げな顔になるので、「そういうわけじゃないんですけど」と返しておく。

…本当は、無いわけじゃない。
もっと我が儘を言ってくれてもいいのにって、割と頻繁に思う。
だけど、それを言っても多分どうにもならないだろうことも知ってるから、口に出したことはない。

「良かったぁ。黒子っちに嫌われたら、生きてけないっスよ〜」

本気か冗談かわからないトーンで言うから、ボクは少しだけドキリとする。
彼はいつも素知らぬ顔でボクを振り回すのだ。

「黄瀬君」

「ん?」

だから、たまには。

「好き、です」

「…へ?」

ボクが振り回したって、構いませんよね?

「大好きです」

「えっ、ちょっ、ちょっと待って」

黄瀬君は真っ赤になってうろたえた。
いつもボクにあんなに簡単に好きだ、と言う彼が。
少し物珍しい気持ちで黄瀬君を見つめる。

「もう、そういうの反則!心臓止まるかと思ったっスよ…」

「…ボクに嫌われたら、死んでしまうのでしょう」

黄瀬君が死ぬのは嫌です。

「そ、それは」

必死に言葉を探している様子。
まあ、もちろん言葉のアヤだとはわかっているのだけれど。

「……黒子っち、からかってるっスね?」

「バレましたか」

ううー、とかなんとか唸りながら涙目でこちらを睨んでくるけれど、なんだかなあ。
かわいい、としか思えない。

「…ばかですね」

そうやって自分は好きだって押しつけてくるくせに、ボクの気持ちはすぐ疑って。
恋は盲目、なんて言うけれど、こういう盲目さはちょっと困る。
まったく。

――嫌いになんて、なるわけないでしょう?

悔しいから、言ってやらない。





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好きなのは、お互い様。



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