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□さまよう掌。
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瑛くん……
どうしてますか?
風邪とかひいていませんか?
そっちにも…海はありますか?
元気ですか?


私は……………。







約一ヶ月前……

私達三年生は、今学期に入ってからほとんど自由登校になっていて…

あの日も、学校は休みだった。


考えてみたら、自由登校だったせいで、気付けなかったのかもしれない…


彼がしようとしていた事に…


その日は特にする事も無く、自分の部屋で雑誌を読んでいた。


確かあれはグルメ情報誌で、新作スイーツや、新しく出来たカフェがいっぱい載ってて、

瑛くんにも見せてあげなくちゃ!

なんて思いながらめくってた気がする…


そしたら、突然電話が鳴って……


電話の相手は、携帯を手に取らなくても分かった。

だって、彼専用の着信音だったから。


私はなんだか嬉しくて、慌てて通話ボタンを押した。


だけど…
あんな事になるなんて…


私があの電話に出なければ、今も隣にいてくれたのかな…

私があの日、会いに行かなければ…


そんな事したら、あなたは何も言わずに行ってしまった?


全て嘘だった。って言ってたもんね…

あの日、きちんと別れを告げてくれただけでも、有り難い事だったのかもしれない…


そう…
きちんと別れを告げられたんだ…

ここで……


そんなの……
十分すぎる程分かってるよ……


だけど、心が受け入れてくれないの。


頭では分かってるのに…

足がここに向かってしまうの。


あの日は風が強くて…
海は結構荒れてた。

最初は言葉の意味が分からなくて、思わず何度も聞き返しちゃったけど…

あなたが吐き出した言葉は、何回聞いても同じものだった。


目の前にいる筈なのに、私の言葉は届かなくて…
まるで、違う国の言葉を喋ってるみたいだった。


引き止めようとした手は、力無く振りほどかれ…

それ以上、何も出来ない私は、スローモーションの様に去って行く瑛くんを、ただただ見つめていた。



『ま〜たここかよ!』

『…………ハリー……』

『そんな、この世の終わり。みてぇなツラしてんじゃねーよ!』

『フフ……
それってどんな顔?』

『今現在の、おまえの顔だ!
つーか、何時からいんだよ?
唇紫だっつーの!』

『あ……本当?
そう言えば…寒いかもしれない。
全然気付かなかった…』

『バーカ!
これ以上ここにいても風邪ひくだけだ!
家まで送ってやっから、帰るぞ!!』

『うん……
そうだよね…風邪…ひくだけだよね……』

『あぁ…………』


いつからか…
私がここに来ていると、何故かハリーが迎えに来てくれる様になった…


最初はすごく驚いたけど、ハリーが来て、連れ帰ってくれるから、私はなんとかなっているのかもしれない…


『よいしょ……』

『ハハッ!
年寄りみてーだな!』

『フフ……
ずっと座ってたから、なんか体が固まっちゃったみたい。』

『ったく……
たまには西本とかと遊びに行けよ!
毎日の様に電話かかって来てんだろ?』

『うん……
でも…私がいても迷惑だろうから…』

『はぁ?
迷惑だったら、最初っから誘わねぇだろ?』

『あ、そうか……』

『ったく……』

『ごめん……』

『何であやまんだよ!』

『あ、ごめん……』

『だから!』

『フフ…………』


夕日が沈んで空に星が瞬くまであと少し…
大好きで、すごく大切だった「あの場所」は、クリスマスの夜で光るのを止めた。


だからきっと…
今振り返っても、その姿を確認する事は出来ないだろう…


それでも……


つい、後ろ髪をひかれる思いで振り返ったけど…

やっぱり、夕日の消えた今では見つける事は出来なかった…


やっぱダメか……


『あッ!!』

『は?
って、おい!
大丈夫かよ?』

『いった〜ぃ……』

暗くなって、足元も覚束なくなって来てるのに、よそ見をしていた私は、足元にあった、半分砂に埋もれた流木につまづいてしまった。

『何やってんだよ!』

『ちょっとよそ見しちゃった……』

『危ねぇな〜!
ホラ!』

『え……』

『手ぇ貸せよ!』

『あ、ありが……
…………ッ!』

手を伸ばしかけた所で、思わず固まる。

『ごめ……大丈夫……
立てるから……』

『…………ッ
そ、そうか!
そうだよな、おまえだってもう大人だもんな!』

『ごめん……』

『な、何であやまんだよ!』

『ごめん…ハリー…』

『だから!
何であやまんだっつーの!』

『ごめ………』

『ばかやろう……』

『ごめ………』

それ以上は、言葉にならなくて。
どんどん暗くなっていく海に紛れて、私は涙を零した…


ハリーは、私の少し前を、全く振り向かずに歩いてる…


ごめん…ハリー……
私…甘えすぎだよね。
ごめんなさい……


でも、ダメなの……
私の右手は……
今もあの時のまま…
振りほどかれた時のまま、今も宙をさ迷ってる…



瑛くん…
元気ですか?

明日はとうとう卒業式だよ?


私は……
今もあなたを待ってます。


瑛くんの大好きなこの海で……。



オシマイ?

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