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□埋まらない距離。
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『あ〜!
先輩だ!
一緒に帰ろう!!』

『天地くんも今帰り?
うん!一緒に帰ろう!』


いつも通り、僕たち一年生の教室がある「三階」から、先輩達の「二階」へと下りる所で、偶然を装って声をかける。


『最近、よく一緒になるね?』

本当は偶然なんかじゃない。
三階の廊下の窓から、二階の廊下を眺めては、先輩が歩いて来るのを確認して下りて来てるんだから…

『そう言えばそうだね?
ねぇ先輩!
今日、アナスタシア寄って行かない?』

『う〜ん……』

『ど、どうしたの?
いつもなら、二つ返事で行く!って言うのに…』

『うん……』

珍しく、言葉を濁して困った顔をする先輩に、僕は動揺した。

『せ、先輩?
別に、無理しなくてもいいんだからね!』

『うん…』

『そんなに困った顔しないでよ!
先輩も暇だろうな。って思ったから誘っただけなんだし!
まぁ、たまには先輩にだって用事位あるよね!』

『ムゥ!
失礼だな〜
私だって結構忙しいんだから!』

『へぇ〜!
それは失礼致しました!
じゃあ、アナスタシアは諦めて帰ろうか!』

さっきの先輩の態度が気になって仕方無かったけど、詳しく聞けるハズも無いから、わざと明るい声で変な空気を打ち切った。


それなのに…


『……ごめんね?』

『え?』

『アナスタシア…
付き合えなくて……』

『べ、別にいいってば!
先輩にだって、たまには用事があるんでしょ?』

『うん…用事って言う訳じゃ……』

なんだよ…
せっかく僕が明るく振る舞ってるのに、そんな態度取るなんてずるいよ…

『用事じゃないって…
もしかして、彼氏でも出来た?
だから、僕とお茶なんて出来ないとか?』

『ち、違うよ!
彼氏とか、そんなんじゃないの!』

なんでそんなに慌ててるんだよ…

『プッ!
先輩慌てすぎ!
ほんと、嘘つくの下手なんだから!
それならそうと言ってくれればいいのに。
……じゃあ、こうやって一緒に帰るのも止めた方がいいよね?
……やっぱり僕、友達と帰るよ!』

『え……』

『あ、そうそう!
先輩、来週から修学旅行だよね?
しばらく会えないけど、次会ったら色々聞かせてよ!』

『あ…そっか……』

先輩…
気付いてなかったの?
僕なんて、ずーっと前から、
「約一週間、先輩のいない学校に来なきゃならないんだ。」
って落ち込んでたのに。

『ま、お土産くらいは貰ってあげてもいいよ!』

『……うん!
お土産、楽しみにしててね?』

……これ以上、ここにいるのは限界だ。
早く先輩の前からいなくなりたい…

『うん!
じゃあね〜!』

『あ…天地くん!』

……………ッ。
平静を装うのも限界で、急いでその場を離れようとした僕の手を、先輩の小さな手が掠め取った。

『な、何?
こんな所、彼氏に見られたら大変なんじゃない?
それとも、もしかして…他の学校の人?』

『彼氏なんて…出来てないよ?』

じゃあ何で、そんな煮え切らない態度なんだよ。

『………分かった!
そういう事にしといてあげる!』

『本当だってば!
……やっぱり、アナスタシア行こう?』

『え?
無理しなくていいよ!』

『………してない!
行こう!
来週一週間会えないんだし!』

『なんだよそれ…』

『え?』

『……なんでも無い。』

『………?』

『とにかく、やっぱり今日はいいよ!
ノリ気じゃない先輩と行くなんて、なんか嫌だしね?
じゃあね!』

『……行きたいの!』

え………?

『本当は行きたいの!』

『無理しなくていいってば!』

『無理してないの!』

『だって……』

『ただ、………が気になって…』

『え?』

『体型が気になって、ケーキ断ちしようかと…』

『え?!』

『だって…
修学旅行でお風呂入る時、お腹出てたら恥ずかしいじゃない?』

『…………プッ!
アハハ!』

『ひどい!
笑い事じゃないよ!』

『ごめんごめん!』

だって、そんな理由だったなんて…

『大丈夫だよ!
先輩は十分細いって!
それに、もしどうしても気になるんだったら、僕がトレーニングに付き合ってあげるよ!』

『本当に?』

『うん!』

『じゃあ…
少し位食べても平気だよね……』

『少しくらい…ね?』

『よ〜し!
本当は、新作気になってたんだ〜。
そうと決まったら行こう!』

『アハハ!!』

『もう!
いつまで笑ってるの?
早く行くよ!』

『あ!』

急に笑顔になった先輩に、不意に腕を絡め取られて僕の心臓が跳上がる。

『でもさー、修学旅行のお風呂の事は気にしてた癖に、僕に一週間会えないのは忘れてたなんて、ちょっとヒドイんじゃない?』

『ごめん…
天地くんも一緒に行くもんだと思ってて……』

『え?』

『なんか、学年違うなんてスッカリ忘れてた。
一緒に行けないなんて、不自然だよね……
一緒に回りたかったな…
同い年だったら良かったのにね?』

……………。

『…でも、アッチから電話するよ!
美味しい物見つけたら、写メも送るから!
何か、そういうのもいいでしょ?』

『先輩……』

『だから、今日は一週間分話そう!』

『………アハハ!
じゃあ、ケーキ一個じゃ足りないね!』

『う……そっか…』

『大丈夫!
僕のトレーニングは厳しいから!』

『よろしくお願いします!』


先輩………
修学旅行、一緒に行けないのは嫌だけど、少しだけ我慢するよ…


さっきの先輩の言葉、結構嬉しかったからさ。


だけど、お土産忘れたら承知しないから、覚悟しといてよね!



オシマイ

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