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□君にエールを…
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ねぇ、先輩…
やっぱり僕は、先輩にとって「ただの後輩」で、先輩はいつまで経っても「僕の先輩」なのかな…
もし僕が、あと数カ月だけ早く生まれていたら…
ほんの数十日、早く生まれていたら…
せめて僕が、もっと素直だったら…
違う『今』があったのかな…
誰か教えてよ……
本当は、最初から無茶だって事くらい、分かってたんだ。
例えるならそれは、「デキレース」で、そうと知っていながらも、参加せずにはいられなかった僕の『自業自得』。
だけど、遊びに誘えば喜んでくれて、話しかければ笑ってくれて…
少し位期待しても、しょうがないでしょ?
僕…ずっと続くと思ってたよ?
あの日、先輩の家に行くまでは…
楽しそうに帰って来た、先輩達を見るまでは。
あの日の海は、多分一生忘れない。
波がすごく穏やかで、夕日がキラキラ反射して、気を緩めたら涙が出そうな位、目が痛くて仕方なかった。
傷ついてたのは僕だったのに、悲しそうな顔をする先輩を見ていられなくて…
僕はもう一つ、間違いを犯した。
『先輩……
そんな顔しないでよ!』
フラれたのは僕だよ?
『だって……』
『だってなに?
うまくいきそうじゃん!
あんなに楽しそうに笑ってるんだもん。
彼だって同じ気持ちなんじゃない?』
『そう…かな……』
そうだよ。
僕には解るんだ。
僕もあんな顔で笑ってた筈だから…
『もう!
そんな顔してたら幸せが逃げちゃうよ?
仕方ないなぁ。
僕が応援してあげる!』
『……ほんと?』
『ほんと!
応援部期待のエース、天地翔太。
先輩にエールを送ります!
こう見えても僕の応援、すごいんだからね?
僕が応援した試合、負けた事無いんだから!』
『本当に?』
『本当!
だから、元気出しなよ!
絶対うまくいくって。』
『ありがとう!』
………そんな顔しないでよ。
僕が応援するのが、そんなに嬉しいの?
僕…本当は先輩の事が好きなんだよ?
『先輩……』
『うん?』
僕…本当は応援なんてしたくない……
『………天地くん?』
『応援がいいからって、手ぇ抜いたりしちゃダメだよ?
しっかり頑張ってよね!』
『うん!
私、頑張るね!』
自分がこんなにお人よしだったなんて、知らなかったな……
数週間後、姉ちゃんの付き合いで、ショッピングモールに行った時、手を繋いで歩く二人を見かけた。
あぁ……
やっぱり、僕の応援って効果絶大だな……
でもさ、自分には効かないなんて、ちょっと不公平だよ…
僕…
あんなに『頑張れ!』って、自分に向かって言ったのに…
何度も何度も、心の中で叫んだのに……
今回の負けは、今までの勝ちを全部合わせても、埋められそうにないな。
先輩……
これ以上は応援してあげられないけど、きっともう、大丈夫でしょ?
僕はちょっと、お休みさせてよ。
頑張るにしても、負けを認めるにしても…
今の僕には力が残ってないから。
だからごめん…
大好きだった先輩の笑顔を、真っ直ぐ見られるその日まで。
ちょっと、一人で頑張ってみて…
end.