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□愛しい人…
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恋愛なんて、ただの「遊び」。
本気になった方が負けなんだ。
そう思ってたんだ。
君に逢うまでは……
僕が高校二年の時、先輩方の卒業式の送辞を読んだ後、君に出逢った…
最初は、いつもの「お遊び」のつもりだったのに、一点の曇りも無い、まっすぐな瞳で君に見つめられる度…何かが変わっていく気がした…
ゲームだったんだ。と言っても、君が僕に向ける気持ちは変わらなかった…
気付いたら、僕は負けていた。
でも、君に負けるなら、それもいいか。と思えるんだ…
そして今、僕たちは同じ大学に通う。
あの頃の自分が嘘の様に、君に夢中で、ハマっているんだ。
『今日は僕の方が先に終わるから、あの店で待ってるよ。』
と言ったら、君は嬉しそうに微笑んでくれたね。
僕たちの思い出の店…
何年ぶりだろう…
二人で行ける日が来るなんて、あの頃の僕たちには想像すら出来なかったね。
そうだ…
あの頃のお詫びに、何かプレゼントを買って行こう…
時間はまだまだあったので、商店街に寄って行く事に決めた。
アクセサリー?
花束?
画集?
……何がいい?
彼女の喜ぶ顔を想像するだけで、僕の心は高鳴るんだ。
そうだ…
この間、彼女と入った店に行ってみよう。
信号待ちをしていると、反対側で同じ様に待っている人達の中に、見覚えのある顔を見つけた…
僕が知っていた頃とは、少し変わっていたけど…
『あれ?………太郎?
太郎じゃない!』
『やぁ…
久しぶりだね?』
彼女が卒業してから会っていないから、もう4年ぶり位だろうか…
『変わってないわね?
ううん、前より大人になって、更にカッコ良くなったかしら?』
『そりゃ、4年も経ってるんだ。
大人にもなるよ。』
『フフッ…
それもそうね?
あ、ねぇ!
今、時間ある?』
『無い事は無いけど…』
『じゃあ、ちょっとお茶しましょうよ!』
『いいけど…』
隣にいるの、彼氏じゃないのか?
『あ、この人?
気にしないで!』
そう言うと先輩は、
『私、用事出来たから、さよなら!』
と、その男に言った。
もちろん相手の男は、
『は?
なんだよ、それ!』
と怒り出したが、
『アンタといてもつまんないのよ。
顔はまあまぁかな。って思ってたけど、太郎の方が何倍もいいわ!
だからもう、私の前に現れないでくれる?』
と言う先輩の言葉に、呆然と立ち尽くしていた。
先輩は、まだやってるんだ…
「恋愛」と言う名のゲームを…
『ねぇ…彼女いるんだって?』
『どうして知ってるの?』
『フフ…
私の情報網を甘く見ないでよ?』
『怖いな…』
『ウフフ…
私が卒業してから、あなたも相当遊んだらしいじゃない?
ね、久しぶりに、私とも遊んでよ?』
悪戯っぽく笑うこの顔…
スラリと伸びた細い手足。
風になびく艶めいた髪…
どれも変わってないようでいて、どれも更に輝きを増していて、あの頃の自分を思い出す…
先輩の卒業式の日まで、僕の全てはこの人だった。
何年も経った今も、変わらず魅力的で、目が離せなくなる…
『どうせ、今の彼女もゲームなんでしょ?』
『………え?』
『太郎みたいなコだったら、年下も年上もアリよね。
ねぇ、久々に遊びたいんだけどな…』
そう…
先輩にとっては、これもゲーム。
でも僕は、もう止めたんだ…
愛しい人が出来たから…
今は、彼女が傷つく位なら、自分が傷ついたっていい。とさえ思ってる。
『ごめん…僕、もう止めたんだ。』
『え?』
『彼女と待ち合わせしてるから、もう行くよ。
久しぶりに会えて良かった。
先輩、お元気で…』
そう言って、伝票を持って立ち上がる。
お会計を済ませて外に出ると、先輩のハイヒールの音が近づいて来た。
『待って!太郎…』
先輩が追い掛けて来るなんて珍しい…
あの頃は、僕だけが追い掛けていたのに…
『彼女の事、本気なの?』
『あぁ。そうだよ。
彼女は、確かに僕より年下だけど、色々な事教えてくれるんだ…
先輩と別れて、傷ついていた僕に、本当の愛を教えてくれたのも彼女だった…』
『そう……
フフフ……』
何がおかしい?
『あ、ごめんなさいね?
本当に、大人になったのね…』
『さっきも聞いたよ…』
『うん…
良かった……』
『え?』
『ゲームなんて、疲れるだけ。
抜け出せるなら、早く抜け出した方がいいのよ…
私も、もう…疲れ果てたわ。
でも、抜け出し方が分からないの…
だから、続けるしかないの。』
そう言った先輩は、ひどく弱々しく笑った…
『先輩…』
『じゃ、私行くわ!
次の男が待ってるの。』
『ハハ…
さすが先輩……』
『でしょ?
元気でね?太郎…
かわいい彼女さんに、よろしくね!』
そう言った先輩は、僕の返事を待つ事もなく、アッと言う間に人込みに消えて行った…
『いけない!
遅刻だな…』
先に行って待ってる。って言ったのに、結局彼女を待たせてしまいそうだ…
少し頬を膨らませながら、上目づかいで怒る君の顔を想像して、思わず笑みがこぼれる。
『ごめんね。』の代わりに、たくさん『好きだ』と言おう。
君はその内、笑ってくれるから…
僕の大切な人…
今すぐ、逢いにいくよ。
★★★★★★★★★★★
拙い文章、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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