other

□愛しい人…
1ページ/1ページ



恋愛なんて、ただの「遊び」。
本気になった方が負けなんだ。

そう思ってたんだ。

君に逢うまでは……


僕が高校二年の時、先輩方の卒業式の送辞を読んだ後、君に出逢った…


最初は、いつもの「お遊び」のつもりだったのに、一点の曇りも無い、まっすぐな瞳で君に見つめられる度…何かが変わっていく気がした…


ゲームだったんだ。と言っても、君が僕に向ける気持ちは変わらなかった…


気付いたら、僕は負けていた。

でも、君に負けるなら、それもいいか。と思えるんだ…


そして今、僕たちは同じ大学に通う。


あの頃の自分が嘘の様に、君に夢中で、ハマっているんだ。


『今日は僕の方が先に終わるから、あの店で待ってるよ。』

と言ったら、君は嬉しそうに微笑んでくれたね。


僕たちの思い出の店…

何年ぶりだろう…

二人で行ける日が来るなんて、あの頃の僕たちには想像すら出来なかったね。


そうだ…
あの頃のお詫びに、何かプレゼントを買って行こう…


時間はまだまだあったので、商店街に寄って行く事に決めた。


アクセサリー?
花束?
画集?
……何がいい?

彼女の喜ぶ顔を想像するだけで、僕の心は高鳴るんだ。


そうだ…
この間、彼女と入った店に行ってみよう。


信号待ちをしていると、反対側で同じ様に待っている人達の中に、見覚えのある顔を見つけた…


僕が知っていた頃とは、少し変わっていたけど…


『あれ?………太郎?
太郎じゃない!』

『やぁ…
久しぶりだね?』

彼女が卒業してから会っていないから、もう4年ぶり位だろうか…


『変わってないわね?
ううん、前より大人になって、更にカッコ良くなったかしら?』

『そりゃ、4年も経ってるんだ。
大人にもなるよ。』

『フフッ…
それもそうね?
あ、ねぇ!
今、時間ある?』

『無い事は無いけど…』

『じゃあ、ちょっとお茶しましょうよ!』

『いいけど…』

隣にいるの、彼氏じゃないのか?

『あ、この人?
気にしないで!』

そう言うと先輩は、

『私、用事出来たから、さよなら!』

と、その男に言った。

もちろん相手の男は、

『は?
なんだよ、それ!』

と怒り出したが、

『アンタといてもつまんないのよ。
顔はまあまぁかな。って思ってたけど、太郎の方が何倍もいいわ!
だからもう、私の前に現れないでくれる?』

と言う先輩の言葉に、呆然と立ち尽くしていた。


先輩は、まだやってるんだ…

「恋愛」と言う名のゲームを…


『ねぇ…彼女いるんだって?』

『どうして知ってるの?』

『フフ…
私の情報網を甘く見ないでよ?』

『怖いな…』

『ウフフ…
私が卒業してから、あなたも相当遊んだらしいじゃない?
ね、久しぶりに、私とも遊んでよ?』

悪戯っぽく笑うこの顔…
スラリと伸びた細い手足。
風になびく艶めいた髪…


どれも変わってないようでいて、どれも更に輝きを増していて、あの頃の自分を思い出す…


先輩の卒業式の日まで、僕の全てはこの人だった。


何年も経った今も、変わらず魅力的で、目が離せなくなる…


『どうせ、今の彼女もゲームなんでしょ?』

『………え?』

『太郎みたいなコだったら、年下も年上もアリよね。
ねぇ、久々に遊びたいんだけどな…』

そう…
先輩にとっては、これもゲーム。

でも僕は、もう止めたんだ…

愛しい人が出来たから…

今は、彼女が傷つく位なら、自分が傷ついたっていい。とさえ思ってる。


『ごめん…僕、もう止めたんだ。』

『え?』

『彼女と待ち合わせしてるから、もう行くよ。
久しぶりに会えて良かった。
先輩、お元気で…』

そう言って、伝票を持って立ち上がる。


お会計を済ませて外に出ると、先輩のハイヒールの音が近づいて来た。


『待って!太郎…』

先輩が追い掛けて来るなんて珍しい…
あの頃は、僕だけが追い掛けていたのに…


『彼女の事、本気なの?』

『あぁ。そうだよ。
彼女は、確かに僕より年下だけど、色々な事教えてくれるんだ…
先輩と別れて、傷ついていた僕に、本当の愛を教えてくれたのも彼女だった…』

『そう……
フフフ……』

何がおかしい?

『あ、ごめんなさいね?
本当に、大人になったのね…』

『さっきも聞いたよ…』

『うん…
良かった……』

『え?』

『ゲームなんて、疲れるだけ。
抜け出せるなら、早く抜け出した方がいいのよ…
私も、もう…疲れ果てたわ。
でも、抜け出し方が分からないの…
だから、続けるしかないの。』

そう言った先輩は、ひどく弱々しく笑った…

『先輩…』

『じゃ、私行くわ!
次の男が待ってるの。』

『ハハ…
さすが先輩……』

『でしょ?
元気でね?太郎…
かわいい彼女さんに、よろしくね!』

そう言った先輩は、僕の返事を待つ事もなく、アッと言う間に人込みに消えて行った…


『いけない!
遅刻だな…』


先に行って待ってる。って言ったのに、結局彼女を待たせてしまいそうだ…


少し頬を膨らませながら、上目づかいで怒る君の顔を想像して、思わず笑みがこぼれる。


『ごめんね。』の代わりに、たくさん『好きだ』と言おう。

君はその内、笑ってくれるから…


僕の大切な人…

今すぐ、逢いにいくよ。


  
★★★★★★★★★★★

拙い文章、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

一言いただけると、かなり励みになりますo(^-^)o

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ