100題2

□震える肩を抱きしめる
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「友達が自殺した。」
そう呟いた彼女の顔は、表情を読み取れる程に感情の抑揚がなく、とても平然としている様に見えた。
その為俺は、その言葉が国語の教科書に載っている物語の台詞か何かかと勘違いしたほどであった。
しかし、それが間違った考えだと言う事は直ぐに分かる。
「確かにあの子は虐めを受けてたから、それで自殺しても、みんな納得しちゃうんだろうし、私もテレビのニュースで虐めが原因で死んじゃった子がいたら、ああ虐めが辛くて死んじゃったんだって、そんな他人事に考えてた。」
"みんな"と言う単語に対し、やけに悪意を込めた彼女に違和感を持ちながら、大きく息をついた彼女を見つめる。
彼女の言いたい事があまりにわからなく、俺にはそれしかできなかったのだ。
だから、彼女が再び口を開くまでの沈黙がやけに長く感じた。だが、きっと彼女は友達との思いででも彷彿させていただろうから、決して長いとな感じなかっただろう。
「なんかね、虐めで自殺する人なんて、テレビの中でしか存在しないと思っていて、自分の回りには、そんなことをする人なんていないと思っていたんだよ。」
どこかでドラマみたいに、二次元的に見ていたんだろうね。自傷する様に笑う彼女の表情があまりに痛々しく見えて、俺はまるで自分が彼女になったかの様に胸が一瞬キシンだ。
「だって、私の周りで誰かが死んだ事なんて無かったから…。」
お腹を抱えて彼女が踞る。言葉の語尾が震えているから、多分瞳は涙腺から流れ出している涙で潤んでいるのだろう。
しかしかがんで彼女の顔を覗く勇気のない俺は、ただ愚鈍に、あぁ。と曖昧に頷き続けた。
「だから、あの子が死んでしまうなんて考えた事なんて無かったし、そんなに追い込まれているなんて思ってもいなかった。」
涙を堪えながら言葉を切り出す彼女の脳内は、俺の知らない大事な"あの子"に埋め尽くされていた。
きっと彼女の中で半永久的にその友達といる事になっていたのだろう。
そんな有り得ない未来を。人が無情に消えることを知らなかったが故に。
「あの子は、いつも私といる時に笑ってたよ?虐めはそんなに辛くないって言ってたよ?なのに何で?」

スカートから覗く、彼女の健康的な膝に、彼女の涙が二粒落ちた。

「私がいるからだいじょうぶだって…そう言ってたのに……………。」

遂に堰をきって止めどなくこぼれだした涙と共に溢れだす彼女の嗚咽。
泣いている彼女はまるで硝子細工の様に繊細で、何か小さな振動ですら、壊れてしまいそうだった。
そんな彼女に恐くて触れる事のできない俺は、やけに白い彼女のうなじをただ見ていた。


いつの間にか瞳からこぼれた雫で濡れた前髪が、やけに邪魔だった。







震える肩を抱きしめる
(そんな事さえ出来ない自分の無力さに泣いた日)

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