100題2
□最後の君の唇に触れるチャンス
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「先輩!メシ奢ってくださいよ!」
いつも息を切らせて走るお前の姿が好きだ。
「前奢ってやっただろ。」
いつも同じように繰り返される他愛のない会話が好きだ。
「いーじゃねえスか!先輩なんスから、後輩に奢ってください!」
ちっとも理にかなわない自分の屁理屈を自信満々に言うとことか、
くだけた笑顔とかが凄い好きだ。
「仕方ねえなあ、今回だけだからな!」
でも好きになっても報われないとかは全然好きじゃない。
「はいはい、分かってますって!」
それでもやっぱり変わらないこんな会話が好きなんだ。
でも、一緒にいるこんな時間が夢ならば、いつか覚めてしまうのが現実なんだって事が俺を縛り付けた
「先輩!さっき聞いたんスけど、明日外国行くとか、嘘っスよね!」
とある放課後、俺にとってはこの学校で過ごす最後の放課後。
誰から聞いたのか、見覚えしかない馬鹿な後輩が息を切らせて走って来た。
「おーう赤也、走り込みか?精が出るなあ!」
そんな赤也の発言なんて軽く無視をして、明るく頭を叩いてやると、は?とかすっとんきょうな声をあげる赤也。
「流石、立海大のエースだな!よし!そのまま町内一週いってこーい!!」
「お、おおお、おす!行ってきます!……………………て待てこら!なに話すり替えてるんすか!!」
「ちっ!おしい、足は出してたんだけどな。」
いつも副部長に言われなれている事を言ってやれば条件反射か走り出そうとした赤也に内心ガッツポーズをとったのもつかの間流石に突っ込まれた。
「なんで、誤魔化すんスか!!」
咎める様な赤也の声に少しだけ良心が痛む。
しかし、そんな事で俺の覚悟は壊れない。
「悪いな。実は俺も一昨日くらいに聞いてさ、用意するのにいっぱいいっぱいで伝えるの忘れてたんだ。」
嘘を吐いても笑顔で。まるで本当みたいに。赤也の中ではこれが本当であってもらいたい。
だって、お前に引き留められたら多分決心が鈍るからなんてそんなカッコ悪い理由。先輩として、恥ずかしいだろ。
だからお前は黙って騙されてればいいんだ。
「……そんなの…そんなのって無いですよ。」
「ごめんな。」
俯く赤也の頭に手をのせて、胸に頭を寄せる。そして何度か頭を叩いてやる。
「…………ごめんな。」
「…………………謝るくらいなら、いかないで下さいよ。」
「…………なーに言ってんだ、無理だっ…て。」
人が低姿勢なのを良いことに、我が儘を口にする後輩に、微笑ましくなって視線を下げれば、うっすらと目尻に涙を溜めている赤也と目があった。
息を呑む。笑顔が固まって、頬がつりそうになった。
だって、あまりにも赤也の顔が真剣であったから。
止めろよな、俺が余りに可愛そうじゃんか、
お前、そんな気全然ない癖に期待ばっかいつもさせやがって。
庇護欲にかられてついそんな事を考えてから、赤也を抱き締めた。
「じゃーな。」
「…………っ。」
最後の君の唇に触れるチャンス
(俺は先輩だからな。後輩泣かしてでもかっこよくいてやるんだよ。)