100題2

□輝かしいほどの大切な仲間
1ページ/1ページ



私の目の前には、静かに瞼を閉じて病的に白いベッドで眠りに落ちている人が居た。
彼の名前は幸村精市。
顔が良く、頭も良い彼は、運動神経にも恵まれたらしく、テニス部という部活で部長を務め、誰も勝てない、孤高だが崇高なる場所にいたのだと聞いた。
しかしながら、恵まれすぎた才能や美貌の見返りの為か、はたまた神の気まぐれか、彼は病に取りつかれ、今や彼は只の人以下、つまりは病人に成り下がってしまったのだ。
同情の余地しかない。と私は思う。そして人も。
かわいそうだ。残念だ。まだ未来があったはずなのに。そんな瞳で彼を見て人は去る。
その人物の目の前にすると感情が溢れるのは分かるが、それでも普通はもっと相手を気づかって陰る瞳を少しでも隠すものだ。
だが彼が完璧であった故か、彼に対する落胆は大きかった様で、誰もが自身の感情に呑み込まれ、その瞳を隠す事が無く、ただ悔やみの言葉を述べていた。
その言葉が相手にどんな感情を生ませるかも分からずただ愚鈍に。
しかしその都度彼は笑った。誰に何を言うでも無く。
羨望や尊敬や期待の眼差しが、同情や哀れみや見下しに変わる瞬間を見てなお、弱味を見せても涙は見せず、苦しみを見せても怒りを見せる事はなかった。
しかし見て分かるほど彼は弱っていった。
それは病の進行も在るだろうが、しかし、人が彼を追いやっているのも事実であるのが一目瞭然であった。
だが、追い詰められて尚、彼は自身が病に負ける事だけは許さず、成功率の低い手術を受ける事を決めてしまった。
彼は人に負ける事よりも、自身に負ける事を嫌ったらしい。思わず天晴れと言ってしまう程見上げた精神だ。馬鹿すぎて哀れな程に。まあ、そう思ってしまうのは、私の様な人間は治さなくても死なない病は治さない方が楽が出来ると考えてしまうからだろう。
"病人"になったら、ただ普通の人より少し見下されて、毎日薬を飲んで、食事制限をされて、普通の人のように運動が好きな時出来ないだけだ。
しかし、彼は、その、普通の人より少し見下されて自身を病人だと自覚させられる事を、毎日薬を飲んで病気持ちだと自覚する事が、食事を、運動を制限されて、病気に屈している気がするのが嫌で、自分に負けるのが嫌だと言いつつ、要は人に見下されたり人より劣ったりする自身が許せなくて、耐え難くて、そんな自身を認めてしまうかもしれない先、未来が恐いのだ。彼の友達がいい人であったり、彼の意思が強かったり、色々なお涙頂戴の理由や経緯が幾らあろうと、その根の部分はどうしようもなく、彼の汚い貪欲で自身が人より優っていたという今までの自負などプライドが棄てられない傲慢さからきているのだ。





と、私は思う。




これはあくまで向かいが病室である私が彼が彼や彼の周りの人を見て思った独善的感想である。
事実と異なっている私の主観的考えで、長く病室という閉鎖空間で頭がイカれて、ネジ曲がった考えしか出来なくなった私の暇潰しでしかない。
実際彼が手術を決めた理由は本当に仲間の為かも知れないし、彼の精神がとても強いだけかも知れない、彼はおだてられても蔑まれても、真実や現実を直視出来る人間かも知れない。
つまり彼を知らない知れない私には全くもって理解しがたい事だと言うことだ。

私は今、目の前にいる瞼を閉じて眠りについている彼に苛立ちを感じていた。
いや、ずっと感じていたのだろう。
理由は至って単純明快で、ただ私にかかっている病気は治らなくて、治るかも知れない方法などなくて、心配してくれる心優しい周りの人間方などいないからだ。
いっそ幸村精市の首を絞めて殺したいくらいには幸村精市が妬ましい。結局彼は恵まれているのだ。
そう思えば更に憎悪と嫌悪が増す。
しかしもし首を絞めようとしても、長く病院にいる私の腕なんてがりかりで、彼の首周りの半分しか覆えない両手の平で彼の事を殺す事なんて出来ないだろう。
良くて呼吸困難だ。
それで彼が目を覚ましたら、病院の栄養しか考えられてない食事しかしていない細枝の様な私なんて簡単に引き剥がされて終わりだ。






いいなあ。














輝かしいほどの大切な仲間
(なんていうとこがいちばん妬ましい)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ