100題

□黒い気持ちを赤くして
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「季楽。」
軽いノック音の後に高瀬の声が聞こえて、ストリートテニス場からもう帰ったのかと壁に掛かっている時計を見てから何のようだろうと思いながらの入っていいよ。と声をかけた。
「気分良くなった?」
そう聞きながら入ってきた高瀬に大分。と言おうとした口は息だけを吐いて、言葉を発しはしなかった。驚いて言葉を出す事が出来なかったのだ。
高瀬の後ろには源と、なぜだか室町が居たのだ。
「なんで。」
餌を求める金魚のようにニ、三回口を開閉してからようやく喉から搾り出すように言葉を出した僕の言葉に室町が答えるのではなく、源が軽い調子で答えた。
「今日オキラクちゃんが気分悪いって高瀬から聞いたから少人数で見舞いに来たんだよ。」
そんな事は別にどうでも良くて、僕が気になったのは何で昨日の今日で室町は僕に会いに来てるの?という事だ。
「室町は何か来ないとか言ってたけど無理やり連れて来ちゃった。」
「は?」
思わず声に出た間の抜けた声が漏れる。
間が悪いにも程があるだろ、それは。室町が来たく無いって言ってたんだったらそれでいいじゃないか。
「お前達付き合ったんだろ?だったら当然お見舞いしなくちゃ駄目だろ。」
「………はあ!?」
こんな間抜けな大声をだしたのは何時ぶりだろうか、ここ三年は絶対無い。そう断言できる大声を僕が出すと、流石の源も驚いた顔をしてどしたのオキラクちゃんと引いたように聞いてきた。
「なんで僕と室町が付き合ったっていう事になってるの?」
「いや、津多がそう言ってた。昨日室町に告白されてうれし泣きしながらオキラクちゃんが走って帰って行ったって。」
どこをどう見たらそうなるんだよ。と言う怒りが津多に対して湧きあがったけれど、今ココにいない人間に怒りを湧きあがらせても意味は無いので、とにかく僕は高瀬と源の誤解を解くところから始めようと話し出したが、どうにも話は要領を得なくて、室町は分かりやすかったや、僕が鈍感だとかの話にどうしても逸れて行く源にどうにか説明をつけたいのに結局源は二人でごゆっくりとか行って結局誤解はとかれる事無く終わってしまった。
この様子だとテニス部の中全域に広がるのも時間の問題な気がする。それは嫌だ。一体どうすればいいだろうか。
そこで気がつく。帰るタイミングをのがして僕の部屋に未だに居て困っている室町の姿に。
「何してんの?」
「いや、何も…。」
僕が話しかけると、室町は視線を僕から逃れる様に逸らした。
そんな様子に少しだけ苛立った僕は、室町にわざわざ責任を感じさせるように、あーあ。誰かの所為で困った事になった。とワザとらしく言葉を言い放つ。
そして室町の様子を横目で見ると、本当に困っているようで冷や汗が頬に伝っていた。
それで僕は昨日の事で困っているのは何も自分だけではない事にようやく気がつく。
室町が昨日の事を言った事で後悔や責任を感じていないわけが無いのに、僕は何で気がつかなかったのだろうか。
昨日の気持ちを伝えたのが室町の身勝手だったら、今の僕だって十分身勝手な事を言った。
「………ごめん。」
「季楽らしくないな。」
「そういう時もあるさ。」
「……だな。」


「誤解解くの、手伝ってね。」
「当然。」


前みたいな友達にはなれないけど、恋人にもなれないから、親友と言う事でとりあえずは落ち着いた僕たちは、広がっていく誤解という物を止めるべく必死に皆に事情を説明すると言う重労働を始めた。





黒い気持ちを赤くして
(と言うか灰色?)



  
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