100題

□真っ白な手のひらは冷たい
1ページ/1ページ






大嫌いだ。
超嫌いだ。
今私が言いたいのはアイツが大嫌いだと言う事だ。



真っ白な手のひらは冷たい





「また忘れたんですか?」
私と柳生比呂士が朝会うと、第一声はおはようではなく、グッドモーニングでもなくこの柳生比呂士の呆れた声音の言葉だ。
柳生比呂士の言っているまた忘れた物と言うのは、別に持ってきていても持ってかなくても、特に人に害を示す様な物ではない手袋だ。
別にそんな物持って来ようが個人の勝手だと思う。ただ持ってこなければ私の手が登校時に限界的に冷たくなって赤くなり一時間目シャーペンを持って字が書けない手になるだけだ。
しかし、柳生比呂士は何過保護ぶっているか知らないが、手袋を忘れた私にいつもあの一言を言って、そしてホッカイロをくれるのだ。
呆れた声を出しているくせに何でそんな気回しをするのか意味が分からない。
と言うか柳生比呂士だって今日手袋を忘れて来ている、手が真っ赤っ赤なのが証拠だ。
柳生比呂士は私にホッカイロをくれたくせに自分は手を悴ませている。馬鹿じゃないのかアイツは。私の事見下したようにため息吐いてくるけどアイツの方が馬鹿だ。
そんな馬鹿に自分の手がまだ暖かくなって無いのにホッカイロあげた私は聖者だと思う。柳生はいつも私にくれるけど、あいつはばかだからカウントしない。
柳生はホッカイロを受け取った時顔を赤くしたけどあれはなんなんだろう。
不思議な奴。
あ〜あげるんじゃなかったな。手が悴んでシャーペン持てないや。
でも私が聖者で居るにはこれしかない。耐えろ、耐えるんだ私。一時間目が終わったら柳生にお前の所為でシャーペン握れなかったんだからと精一杯嫌味を言ってやるんだから。
っと、そんな事をくふくふと考えていると一限目が始まり、そこから私のシャーペンを持っては落とし持っては落とすと言う途方も無い繰り返しを始めた。
そして授業開始二十分。ノートに一文字も文字を書けずに、私は遂に机からシャーペンを落とした。
あーあ遂にやっちゃったよと思いながらも仕方が無いと言った感じでだるそうに私はシャーペンを取ろうとした。
けれど、誰かの手が私よりも先に私のシャーペンを拾い上げた。
細くて白いけど私よりごつごつした男の子の手。この手はよく知っている。
柳生比呂士の手だ。
顔を上げてみればどんぴしゃ。柳生比呂士だった。
「なんだよ。お前は自分のノート取ってればいいだろぉ。」
そう言いながらもシャーペンを受け取る。
柳生比呂士は人の親切をそう言った言葉で返すのは良くないですよと窘められた。私はその言葉は確かな正論なのでなにも言えず言葉に詰まって口をへの字に曲げた。
その私の顔が面白かったのか何でなのか、柳生比呂士はくすくすと失礼な事に笑って、そして私の片腕を引いて私の手のひらに温かいものを置いた。
瞬間私の心臓は飛び上がる、それは、柳生の手が途轍もなく冷たかったからだ。
だけど何故だろうか顔は体温上昇をし続けて、心臓もいつまで立っても静かにならない。
柳生はもう平然とした表情で黒板の言葉の羅列を書き出していて、私は私が朝貰ったものとはまた違う柄のホッカイロを両手で握り締めて心臓が収まるのを待った。




真っ白な手のひらは冷たい
(柳生!今日も手袋忘れた!ホッカイロ!)(またですか。)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ