100題

□苦いコーヒーと君からの嫌味
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生まれ変わった部屋に俺は呆然と座り込んでいた。
先ほどまで忙しいとも言えない充実した時間を過ごしていた為か、終わらせてしまうと途端に全てのやる気が無くなってしまったからだ。
やる事がでない。
先ほど電源を落とした携帯に散々着信を入れてくるストーカークンに今日はもうメールしないで電話もしないでくれないかと頼むくらいはあるけれど、そんな面倒くさい事しない。
きっと今日は人と会話をしたくない日のようだから。
勝手に約束ぶっちぎったのは悪いと思っても、それを謝罪するのがメールでも面倒くさい。
謝罪メールに返信があったらまた返さなくてはいけない義務感に駆られるから。
こう見えても意外と俺は律儀な方なのだ。
それにしても喉が渇いた。
台所行ってコーヒーでも淹れようかなと思い、ついでに缶のクーキーをお茶菓子様に母さんが買っていた事を思い出したので、それとコーヒーで一服するかと俺は重い腰を持ち上げて台所に行くことにした。


「あった。」
台所の引き戸の中には記憶どおりにクッキーがつまった缶があり、それを確認した俺はヤカンに水を入れて火に掛ける。
そして戸棚を開けて、通販で母さんが買っている使いきりのインスタントコーヒーを取り出した。
モカ、ブラジル、コロンビアにブルーマウンテン、キリマンジャロにヨーロピアンブレンド、グアテマラ。
今日はどれを飲もうかと考える。
クッキーが甘いし苦いブラジルにしようかな。
そう思いブラジルと書かれたコーヒーを取り出しながらふと彼の言った言葉を思い出す。

昔、彼が家に来た事がある。
でもその時も家にはそんな彼の口に合うような上等なものは無くて、インスタントのコーヒーしかなかった。それなので俺はちゃんと断りを入れてからインスタントコーヒーをだした。
そして彼は文句言わずにそのコーヒーを飲んだ。
その事が俺にはとても意外で、彼にその事を言うと、彼曰く出されたものに文句は言わないらしい。
まあ何とも彼らしい意見だと呆れて、数あるインスタントコーヒーの種類で一番値段的に上等な奴を淹れたんだから文句を言われる筋合いは無いと俺はその時そんな事を言ったと思う。
そしたら跡部クンはこんなの値段で味のレベルに変わりなんてねえだろと言い放ち、俺の飲んでいたコーヒーも飲んだ。
その時俺が飲んでいたのもブラジルで、別に俺は不味い物なんて飲まないし不味いと思っていなかったけれど、彼はブラジルを飲んだ途端顔色を変えた。
「何だこれ!煤じゃねえか!!」
ブラジルは彼の口に合わなかったらしい。それにしても酷い言い草だったな。
そう思いながら俺は笑んだ。
その時の彼がとても面白かったから。
そんな事を考えていたら俺は無性に彼の声を聞きたくなって、お湯の沸いたヤカンを持ってインスタントコーヒーを二人分淹れて、クッキーとコーヒー二人分を部屋に持って行って、携帯の電源を入れた。





苦いコーヒーと君からの嫌味
(てめえ、人との約束破っていい度胸じゃねえか、アーン?)
(そんな事より今から家来ない?クッキーとコーヒーあるから。)
(………煤以外なら飲んでやるよ。)
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