100題

□焼付けた君の笑顔
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泣いていた、誰にもばれないよう屋上の影で。
でも黒羽は私を見つけた。
「何してんだよ?」
「何でしょう。」
顔を伏せながら私が答えると、黒羽はそれ以上何も言わないで私の隣に座る。
そんな黒羽に、私は顔を伏せながらでも涙は止まったので口を開いて協力してもらっていた手前言わなくてはならない報告をした。
「フラれた。」
「だから言ったじゃねえか、好きな奴いるって。」
「うん。」
ずっとずっと好きだった佐伯君。黒羽に聞くまでもなく、自分でも気が付いていた。
だって、彼女に向ける目が違うから、暖かさが違うから。でもそれでも好きだったから、結局ふられたけど。
「好きだったんだもん。」
「ああ、そうだな。」
黒羽は静かに私の言葉に同意してくれる。
ああ、ホントにコイツは優しいなって、実感する。
私がずるいと実感する。
「私ね、知ってたんだよ、黒羽が私の事好きだって事。」
「ああ。」
黒羽は驚く事も無く静かに相槌を打った。
「ゴメンね。慰めて貰ったり応援して貰って。」
「ああ、気にすんな。俺は気にしてねえし。」
気づかいや、区切りの混じったその声に、私はやっぱりごめんと思う。
でもそんな言葉黒羽は欲しく無いんだろうな、って思って私はありがとうって答えてから、伏せていた顔を漸く持ち上げる。
そして隣にいる男気溢れる優しい友達の横顔を見た。
黒羽が私に気が付いて私に満面の笑みを見せた。



何でコイツを好きにならなかったんだろうと少し後悔した。



焼け付けた君の笑顔
(佐伯君の笑顔が私の中から消えない)



 

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