100題

□届く事の無い気持ち
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「世界が壊れたほうがいっそ平和ですわ。」
「はあ?」
開いていた携帯を机に置いた財前が言った言葉は唐突かつ、意味が分からないものだったので、取りあえず俺は声をあげその意を声色で伝えた。
そんな俺を見て財前は机に置いた携帯を寄こした。それなので俺はその携帯を覗く。
携帯の液晶画面に映っているのはネットニュースであった、その内容は核爆弾の事で、各国で何本持っているやら何本解体したとかそんな事が書かれている。
「で、何でコレ見て世界壊れた方がって、考えになるん?」
俺は顔をあげ財前の顔を見ながら問いかけると、財前は俺から携帯を返してもらい、核爆弾持っとるとこがエコ賞とかもらっとる時点でもうこの世界の救済措置はそれしか無いと思ったんです。と淡々と答えた。
「でも、平和言うても平和になるもんが無かったら平和やないやろ。」
「………それもそうですね。」
ソコまで考えとらんかったです。と財前は死んだ魚の目で答え。少し上目加減になり頭を捻った。どうやら次の案を考えているらしい。
「財前も時々アホやなあ。」
ため息と共にそう言えば、財前は少しむっとした様で背を此方に向けた。
そんなとても年相応の反応を返して貰って俺は少し年上の自分に得を覚える。
この目の前に居る財前という後輩は色々な才能に恵まれている。と言う性格を歪ませる要素を持っているためか生意気で年下の粛々とした態度を見せたことが無い。その為時々見せる年下のかわいらしさに胸をときめかせる。
そして多少理不尽または上からの発言が出来る年上と言う位置に小さく感謝する。
「で、何か考え付いたか?財前。」
「……改善された考えは無いんですけど、やっぱ世界は一回位壊れたほうがええと言う考えがええなあという事は思いましたよ。」
「考えた意味無いやんけ。」
俺が呆れた声を出すと、そうですか?と財前は首を傾げて聞いてきたが、俺にはその答えを返す気力も無く机にうな垂れた。
財前が立ち上がる音がする。机に耳をつけているとががが、と椅子が床に擦れる音が余計大きく聞こえて不快感が浮上する。
財前が歩く一歩一歩の音も良く聞こえる。しかしどの音も大きすぎて距離感が掴めない。
そんな事を考えた矢先、財前が俺の髪に触れた。
財前がわさわさと髪を手で弄ぶ。
「何しとるん?」
「いや、部長の髪さらさらで気持ちええなあ思うて。」
あ、そか。と答えて財前の行動は放置する。
「俺は部長と俺の関係認めんこの世界なんかいらんのですわ。」
そか。俺は顔を伏せたまま答える。
顔を上げたら財前のその言葉を否定しそうだから。
財前の言い分が間違っていると思わないから、否定は違うと思うから。





「(でもな、財前、俺はお前が居るこの世界を壊そうとは思えへんよ……。)」





届く事の無い気持ち
(届ける気無いゆうんやろな…。)

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