100題

□遠いと思った距離ほど近いものは無いと思っている
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自分で自分をかわいそうだと思っていても、天罰が下る訳でも無い上みな(本物の聖人君者以外は)自分の事がかわいそうだと思っている。
少しの不幸が舞い降りただけで、不幸だと自身の内で嘆いている。
それならば、私だってかわいそうだと嘆いていい筈であるし、かわいそうだと主張をしてもいい筈である。
でもそんな事を真剣に口にしたら人は自意識過剰だと言うか、被害妄想と言うか、悲劇気取りだと嘲笑うだろう。
彼らは自分と同じ者を嫌うのである。同族嫌悪とでも言うのであろうか、ともかく彼らは自分も思うことを主張した人間に、理由はさまざま結局その相手を嫌悪し嘲笑うのである。
ちなみにこの感想は今私の居る空間を見た私の勝手な感想である。
今私の居る教室では私はニ、三度しか会話をした事の無いクラスメイトの少年が突然真剣に自身がかわいそうだと言う事を主張したのだ。
そして同意を求めた。みんなも自分がかわいそうだと思ったことあるだろう。と、
しかし結局彼は拒まれた。教室内の全ての人間に。答えなかったのだからきっと彼には私も同じに映っただろう。
彼は教室から去った。きっともうこの場所には帰ってこないだろう。
そして彼は一週間後自殺した。
自分を理解してくれる人が居なかったからか、認めてくれる人間が居なかったからか、自分の思っている事も口に出せない私を含むクラスメイトに失望したのか、とにかく彼は自殺した。
クラスメイトの少年少女たちは、あの時自分らが彼の主張を肯定しなかったから彼が死んだのかと自問したり責任の押し付け合いのような事をしたりしていた。が、私は彼が何故死んだのかなどと言うものには興味が無かった。
私の興味が引いたことは、教室を出て行く際彼が見せた一瞬の笑みだった。
その一瞬に全意識彼に向けていたからこそ気がついたが、彼はあの時そうなるだろうと、教室の少年少女が出す答えを理解していたかのような笑みをしたのだ。
しかし彼は拒絶された瞬間は傷ついた様な顔を見せた。
何故だろう。
その上、分かっていたのなら何故主張をしたのだろう。無駄だと分かっているのに。
それが私の疑問であった。







「何故だろう。乾。」
私は私の疑問を私より頭のいい乾に聞いた。しかし乾から帰ってきた言葉は分からないな。と言う言葉で、私の欲しい答えではなかった。
私はその乾の言葉を聞いて、ふうん。と答えながら乾は情報の少ない相手の考えている事は本当に知らないことが多いなと幻滅ではない単純な感想を抱く。
「乾にも分からないか。」
そっか。と私が呟いた言葉を聞くと、乾が曇り眼鏡を曇らせたまま、憶測なら出来るけど、聞く?と私に尋ねた。
俺はその彼に会って無いから表情も分からないし、確実性なんて1%も無いけど。と付け足した乾のその言葉を聞いて私は、悩む事も無く頷いた。
正しいかは二の次にして、複数の意見を聞けば、自分には見えない物が有るかもしれない上、それが正しいかも知れないからだ。
そんな私が頷くのを見て、乾は話を始めた。

「人は常識と言うものに縛られている。それは小さい頃から積み上げられ続けている偏見の教えとそれを踏まえた考えの所為だけど、それの中に自身を卑下する事はあっても自身を過剰的に主張する事は恥ずかしいまたは間違っている事になっているんじゃないかな?だから皆は否定する事や拒む事しか出来ない。そして彼はそれを分かってはいた。だから笑ったけど、夢で痛みを感じないのと同じで、考えで自分は傷つかない。でも彼は覚悟を決めたつもりで皆に言ったんだろう。それで、思っていた以上に傷ついた。自殺がそれに関わっているかは知らないけど。だから彼は傷ついた顔をした。」
乾は話し終えると息を吐いた。そしてそれだけだよ。と言って私を見る。私は乾にやっぱり乾は頭いいねと言ってそして三回手を打った。
しかし乾は特に表情を変えず、憶測はあくまで憶測だよと答えて眼鏡を押し上げた。
そんな乾の横顔を見てから空を眺めて、死ぬのって随分簡単に出来るんだよねとだけ思い、乾にばいばいと言ってから家に帰った。







遠いと思った距離ほど近いものは無いと思っている
(日常的に人は死んでいるのに何でこんなに遠い気がするんだろう)



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夢とは言わない。

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