100題

□傷ついたって気にしない
1ページ/1ページ





菊丸君はいつも今を生きている。
それはテニスであったり購買のパンを買いにダッシュしたりしている事を示しているのだが。

彼はいつも明るく前向きに何も考えていない。
それはあと半年で高校生になる人間としては、とても危うい気がすると私は常々思っている。
そんなのでは、まともな未来が待っていないぞと。
しかし彼はもう高校の推薦入学が決まっているし、その身体能力を駆使すれば何も困る事無く生きていけると言うのも事実であった。
それは正に選ばれた人間と言う言葉がピタリとあてはまる。
彼はあまりに差別的に秀でていて、だからこそ脳天気な彼を見て時々心底黒い感情が湧き上がるのを感じる。
しかしそうは思っても、そんな彼を好きなのが事実であり、付き合っているのも事実であった。

彼のその明るい性格を見て何度も励まされたのも、彼が努力してその特別を作ったのも私は理解している。
しかし彼は、何も考えていないくて何も理解していないのだろう。
自分の将来や私の負の感情や、その他諸々の漠然とした物全てを理解していないのだろう。
私が彼とは違う学校に入学しようとしている事や、そしたら私が菊丸君と別れようとしている事全てを理解していないのだろう。
彼は、何時までもテニス部の仲間と一緒にテニスが出来ると思っていて、私とはずっと付き合っていることが出来て永遠愛していられるとでも思っているのだろう。
今有る物が永遠に続くと。
菊丸君はきっと私が必死に勉強をして青学の高等部に入って、また同じテニス部の人間とテニスが出来たら、それが永遠に続くと言う錯覚を持ったまままた三年間生きていくだろう。
だから、私は彼と同じ学校なんて行かないで、関係を自然消滅させて永遠なんて無い事を、人と人の関係の儚さを教えてやるのだ。
菊丸君が好きだから。
きっとコレを自己犠牲と呼ぶのだろう。
本来女性とは男性に尽くすと、そうであったと社会の教科書に載っていたから、私は間違っていないと思えるから。
菊丸君は私の事が好きだから、そんなの驕りじゃなくて言える位に私を思っていてくれているから、そんな彼を悲しませるのだけは胸が痛むけど、でも、彼の錯覚を私は覚ましてあげたい。




傷ついたって気にしない
(だって自己満足だから)


    

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ