100題

□棄てられない思い出の残骸
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フラれた。

跡部クンにフラれた。

じゃあなって、フラれた。

別にそれほど好きだと思った事なんて無かったけど、女の子に頬を叩かれたときより胸に響いて心臓がぎゅうってした。




今日跡部クンにフラれた。





「コレは、高く売れそうだし……居るもの。……コレはいらね。」
俺は跡部クンから待ち合わせの時間に遅れるなと言われて渡された時計をベッドに置いて、女の子から貰った趣味ではない香水を大きいビニール製のゴミ袋に放り投げた。
「コレは、……練習の球減んのやだしね。」
そう言って跡部クンと交換した名前の書いてあるテニスボールをベッドに投げる。
「コレは、いらない。」
女の子から貰ったシルバーネックレス。
「コレもいらん。」
似合うと女の子に言われた服の載っている雑誌。
「コレも。コレも、コレもコレも、いらね。」
全部全部女の子に貰って、俺がへらへら受け取った物。
跡部クンからは二個しか貰ってない。
「うーん。予定と違うなあ。」
突然こんな事をしだしたのは、分かれた人たちとの物と別れようとそんな感じで主に跡部クンから貰ったものを棄ててやろうと思って始めたのだ。
しかし跡部クンから貰った物など殆ど無く、自分の尻軽さを実感しただけに終わってしまった。

「………恋人にプレゼントを二つしかくれてなかったって、なんだよー!」
誰に言うでもなく天井に向かってやけくそにも似た叫び声を上げて、俺はそのまま頭を横にあるベッドに埋める。
「俺、一つしかまだあげて無かったよ…。」
俺があげたもの、ソレは交換をしたテニスボール一つ。
別にあげようと思ったこともあるが、何にせよ彼はお金持ちのお坊ちゃん。そこら辺にいるちょっと高いプレゼントで喜ぶ人間じゃない。
寧ろ、もっと高いもの平然と持っているだろう。
だから、俺は高い以外の方向で彼が貰って喜ぶものを考えていたのだ、そしたらあげる前にフラれた。
考えた時間分損じゃんかよこんちくしょー。
本当に、分かれたんだよね。俺たち。
実感が自分に無さ過ぎて夢だった気がするけど、自分が速攻で消した携帯のアドレス帳を見れば、亜久津の下に居た跡部の文字が無くなっている事が分かる。
夢じゃない。
何度見直したか分からない電話帳に悲しくなって、携帯電話を閉じる事も無くベッドに投げる。
ぼすっとくぐもった音を発てて落ちた携帯の音を聞いて壊れてないかと少し焦る。しかし液晶画面に変わらず跡部クンを映す携帯は壊れている様子は無い。
貰った物も、隠して取った写真のデータも、あげれなかった本を見ながら作った手編みのマフラーも、みんなみんな、全部君を映す。

ソレを棄てれないボクは一体どれほど君が好きだったんだろうね。
分からないよ、君はいないし、きっともう他の人とは恋、出来そうに無いから。

液晶画面が暗くなって君を映す事を止めた。


それでもメモリには、君は今でも存在している


棄てられない思い出の残骸

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