100題

□ひとかけらの愛情
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俺は、先手必勝とばかりに、本当に唐突に、跡部クンの端正な顔を思いっきり殴りつけた。
しかし、跡部クンは驚くことも倒れることも無く(ダメージはちゃんと有るみたいだったが)、俺を殴り返してきた。
別に事の発端は無い。
ただ俺が跡部クンの事を物凄く嫌いで、彼も俺の事を凄く嫌いなだけだ。
嫌いな相手を殴るのに理由はいらない。
嫌いだから。それが理由。
ともかくそんな訳で俺と跡部クンは顔を合わせるたびに殴り合いと言う幼稚な喧嘩を繰り返していた。
そして今日もそう。
今日は中規模のテニスの試合が有り、俺はその試合に伴爺はなぜか強制的エントリーしていたから、渋々来ていたのだった。
そしてそこで跡部クンの姿を見つけた。
だから殴りかかったのだ。
そして殴り返された。
跡部クンは俺がこの試合に出ることをもう知ってたらしい。だから殴りかかってくるのを待っていた。と偉そうに喋った。
そんな跡部クンに俺は、分かってたのに避けられなかったんだ?だっさ。と多分相当な平和主義者じゃなければ頭に血を簡単に昇らせてしまうだろう言い方、仕草で言ってやると、俺を知らない奴でも俺を殴りそうなモノで彼が頭に血を昇らせない訳が当然無く、彼は足癖の悪い足で俺の背中を思いっきり蹴り飛ばした。
「いったあ!ホントに君は足癖悪いねえ!そんなんでも君坊ちゃんなんでしょう、が!!」
そう言いながら俺は跡部クンに殴りかかり、壮絶な喧嘩を始めた。



「この馬鹿頭色ヤロウ!今度あったら覚えてやがれ!!」
「こんどは先手とれるようにね〜。」
別に俺が喧嘩に勝ったわけではないが、跡部クンは相打ちが気に入らないらしく、負け犬のような言葉を毎回の如く言う。
だから俺は勝ち誇ったようにその言葉に返す。
いつも喧嘩後の会話。それで俺たちの喧嘩は幕引きになる。
だがしかし、今日最後に蹴りをくらった俺は、満足ができていなかった。
やはり嫌いな相手に最後自分が手を出して終るのが正しい喧嘩の幕引きだと思う。俺は思う。絶対思う。うん。
なので、喧嘩をしている間に試合に棄権負けした跡部クンはもう帰り支度をしていたが、俺はその跡部クンに向かって走り出した。

「トルネードジャンピングッキックぅ!!」
そう言いいながらただの飛び蹴りを食らわすと、完全に不意を突かれた跡部クンは前のめりに倒れる。
「ってっめえ!ふざけんな!さっさとどけ!!」
完全に倒れこんだ跡部クンの上に同じく体勢を崩し倒れた俺に跡部クンは必死に怒鳴る。
「あっはっは。めんごー☆」
自分も壮大にぶっこけたのを誤魔化すようにアハアハと笑いながら俺は跡部クンの上から退く。
そして跡部クンが立ち上がる前にダッシュで逃げ去る。彼が体勢を立て直す前に追う気が失せる程の距離を稼がないといけないので結構本気で。
あぁーはっはっは。逃げるが勝ちだよ跡部クン!



「くっそ。あの馬鹿頭野郎。」
俺は悪態を吐きながら近くにあった壁を殴る。
いつもはあの一言で終っている為にさっきのとび蹴りは完璧に不意を突かれた。
習慣のような物をアイツの気まぐれは簡単にぶち壊すのを忘れていた。
「今度あったら容赦しねえ。」
別にいつもしている訳ではないが、そんな意味の無い言葉を口出すぐらいに俺の怒りは腹底から湧いていた。
「あ、跡部!」
そんな俺の様子など気にも溜めていない様子の声に名前を呼ばれる。
千石と喧嘩をしだすようになって知った声だ。
振り向けば、思った通り、同じ部員である筈なのに、ハッキリ言って千石とは正反対の人間性を持つ南健太郎が居た。
「何だ南。」
不機嫌さを隠す事も無く聞き返すと、出会った間際は怖じていた南ももう今は慣れた様子で、簡潔に用件を述べだした。
「千石の奴何処いったか分かるか?さっき跡部との喧嘩が終った直ぐ後にいけばアイツの試合はまだ間に合ったのに、隣から急に居なくなっちゃったんだよ。」
「………。」
「跡部?」
急に押し黙った俺に南が訝しげに俺を呼ぶ。
「いや、何でもねえ。つうか、アイツの事を俺に聞くな、知ってる訳ねえだろ。」
「あ、そうか。それもそうだな。悪い。」
南はそう言ってまだ千石を探す気か、コートとは別方向に駆けて行った。




ひとかけらの愛情
(だってフェアじゃないじゃん?)

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