100題

□絡みつく情愛の念
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白石部長と副部長がキスをしていた。部員が全員帰った部室で。
部員全員帰ったのに何で俺はソレを見たかと言えば、何とも簡単な事で、忘れ物をしたから。
たった一つの忘れ物でこんな物を見てしまった俺は何てアホやと思う。
今部室に入ろうかと思う。
部室に入ってどうする?
さあ?
そこで行き止まる。
俺は部室に入るのは止めにした、なんだか二人がキスをしたと言う場所にこれ以上近づくのが嫌だ。

「(ああ、そうや。)」
良い事を思いついた。



部活途中、部員が帰った後に誰にも聞かれたく無い話があるから残って下さいと白石部長に頼むと、特に悩む事もせず白石部長は二つ返事で承諾した。
そして今、部室には俺と白石部長の二人しかいない。まるで昨日の場面が俺に差し替えられただけの様な気がする。

「部長。コレ見てもらえまへん?」
「コレ?」
俺は携帯を開きある物をディスプレイに表示して白石部長に見えるように差し出した。
「……!!」
白石部長が息を呑むのを見て俺は心中で笑った。
ディスプレイに表示されている物は、昨日の二人のキスをしている現場を撮った物で、白石が息を呑んだという事は、誰にもばれたくないと思っているから。
これならダシに使える。
俺はそう確信した。
「ほんまビックリしましたわ、まさか白石部長と副部長がこんな仲だったなんて思っとりませんでしたから。」
その言葉で白石部長の肩が跳ねる。
俺はそんな白石部長の手から携帯を取り上げる。
携帯を覗けばキス現場の画像は消去されていた。
「っは、そんなばれた無いんです?でも、携帯の画像消しても無駄ですわ。パソコンの方にもう移しとりますから。」
冷たくそう言えば、今にも白石部長は泣きそうな顔をする。
しかし、そんな白石部長を見ても俺は同情心など全く沸かず、寧ろ苛立った。
そんな副部長と付き合ってたいんですか。と。
普通に考えて、ばれたら別れさせられるのがオチだろうから。
それを白石部長も分かっているんだろう。
そんな好きなんですか?

「………別に、俺はばらそうとか思っとる訳では無いんですよ?」
「っほ、ほんまか!」
白石部長が顔を上げた。
その反応がとても嬉しそうだったのに苛立ったが、しかしこの後言う言葉でこの人はどれほど地獄に堕とされるのだろうか。と考えれば、そんな苛立ちは小さいものだから、俺は喋り続けた。

「ほんまですわ、ただ条件があるだけで。」
「…条件?」
一歩一歩近づきだした俺に少し警戒心を持って後ろに下がりながらも、白石部長は縋るような希望をもった眼差しを消す事無く俺に聞き返した。
「そう。条件です。」

とうとう壁に追い詰められた様な形で白石部長の頭を挟むように俺は壁に手を付いた。

「俺と付き合ってくれまへん?」
「…っ!!」

問いの様でいて強制的な言葉、白石部長は断ったら自分がどうなるか直ぐに分かったようで、拒絶の言葉は吐かなかった。
「流石、学校一の秀才。こんな時でも。頭の周りはええですねえ。」
俺はくつくつと笑いながら耳元で囁く、白石部長は震えているだけで何も言わない。

俺は、白石部長が副部長とキスをしていた場所で白石部長にキスをした。

震えて強張る唇に深く深く、絡みつくように

まるで、蜘蛛が巣についた蝶を食らうように

深く深く絡みつくように

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