100題2

□朽ちた花を今日拾った
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泣いているその姿を見ているのは、俺に対して拷問でしかなくて、でもその場から去れないのは拷問となる理由と同じ理由の為で、俺はその子が好きだからこんなにも苦しめられている事実がココでおきているのだ。




彼女は自分の部屋に籠って泣いている。
俺はそんな彼女に話しかける事も出来ず彼女の部屋の前に突っ立っている。
彼女の泣き声を聞きながら。
彼女は付き合っていた彼氏に二股をかけられていたと言った。
それを問い詰めたらあっさりと切り捨てられた、と。
彼女はそれだけ言うと、涙を滝のように流しだし、そして自室に籠ったのだ。

俺はその事実を知っていた。
しかしそれを彼女に伝える事が出来なかったのだ。
彼女の悲しむ顔が見たくなくて、彼女が幸せならそれでいいと。
今のこの最悪な事態を作ったのは自分なのでは無いかと握りこぶしを作る。
自分が言ってやる事が出来なかったから、知ったときのショックは大きくなったのではないかと。
額をドアに当て、ゴメン。と呟く。
「何で虎次郎が謝るの?」
帰ってくると思っていなかった声に俺は驚いて顔を勢いよくあげる。
すると、ドアがぎぎ…。と少し鈍い音がしながら開き、瞼を真っ赤にはれさせた彼女は傷を隠すように不器用に俺に笑いかけた。
俺はそんな彼女にもう一度謝ってその理由を話す度胸もなかったものだから、彼女のように、不器用な笑顔を作って上総に笑いかけた。
そんな笑い顔でも彼女は安心したような顔をして、顔、洗ってこなきゃ。と洗面所に歩いていった。
俺はそんな彼女の後ろ姿を見ながら壁に寄りかかってそのまま座り込む。
何で言えないんだろう。一言、ゴメンと。
彼女に許して貰えない事を恐れているのだろうか、俺は。
弱い自分に情けなくて呆れたため息すら出てこない。
何で俺は彼女を守ってやる強さも彼女に嫌われる覚悟も出来ない弱虫なんだろう。
頭を抱える。
このまま消えられたらいいのに。と半ば真剣に思う。
「何で…。」

「虎次郎!」
先ほどとは違う、随分と明るくなった声が蹲る俺の名前を呼んだ。
顔をあげ俺を呼んだ彼女は、瞼の腫れはまだ残っていても無理やりではない、明るい笑顔をしていた。
俺はその笑顔を見て、夏の太陽の日差しに当たっている時と同じ錯覚を覚える。
そして自分の居る所の暗さを理解する。
ああ、そうか、俺の居る場所がこんなに暗いから、俺はこんなに臆病で君を支える事も出来ないんだね。
俺は彼女に彼氏の二股の事を教えた同じテニス部の後輩の顔を思い出す。
洗面所に居る間かその前後か、きっと会ったのだろう。
だからこの笑顔を見せることができたのだと俺は悟る。
きっとダビデなら彼女を苦しめる事は無いだろう。
だって彼女を救う事が出来たのだから。
俺には出来なかった事を簡単にしてしまえたんだから。




朽ちた花を今日拾った
(それはまるで、今の俺のようで)

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