100題2

□恐れるアイツに毒薬を
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「人殺しって、女の子には向かない職業なんだって。」
いつもの様に練習をしていて、十分休憩と部長が宣言してから数分、隣でドリンクを飲んでいた鳳がドリンクを口から離すとそんなふざけた事を言った。
唐突な上意味が全く伝わってこなかったので、俺は投げやりに鳳を見てみる。
そして人殺しはまず職業じゃないという事を言った方がいいのだろうか。それともココは無視するところか?と考える。
「つまり男なら向いてるって事なのかな。」
「そういう意味でも無いだろう。」
さすがに口を挟まずにはいられなかった。どうしてこうも馬鹿な事を考えるのだろうか、時々脳の中身を見てみたくなる。見たところで苛立つか理解できないかの二択しかないだろうが。
「女に向かないってだけで男に向いている可能性が高い事は無いだろ。」
こう言っておかないとコイツは女が出来なくて男の出来る職業(つまりホストや野球選手やその他諸々のもの)の中に人殺しを入れかねない。
そんな理由でいい加減に放たれた俺の言葉を聞いて、なるほど。と瞳を見開く鳳。馬鹿かコイツは。……馬鹿だなコイツは。
「だいたい、単純にお前で考えてみれば簡単な事だろ、お前は男でもお前だから人殺しなんて出来ないだろ。」
「うん。そっか。俺に向いてないね。」
「向いてない以前の問題だと思うぞ。」
俺は呆れてため息を吐く。
「だいたいなんでそんな話になったんだ。」
鳳からどんな経緯であろうと『人殺し』の単語が出てくるとは思ったことがなかったので、その経緯を聞けば、鳳は小説を読んだのだと言う。
「友達から薦められた本があって、それの題名が『少女には向かない職業』って題名で、題名だけで読みたくなくなったけど、凄くその子が薦めるから読んでみたんだ。」
鳳の口からでる小説の評価は、鳳が普段どんなものを読んでいるのかが分からない俺からすると、その本がいいのか悪いのかは掴めない。だがそんな題名を持ってくるところでまともそうではない雰囲気を感じとれる。
「人を殺すために用意するのはすりこぎと菜種油です。っておもしろいよね。」
意味が分からない。何が面白い?馬鹿な感じが大いにする。
「でも、何か悲しい話だったよ。」
日吉も読んで見れば?と突然話を振られ、俺は即座に断った。面白そうなイメージが全く湧かなかった為だ。
「そんな胡散臭そうなものを読む暇があったら練習をする。」
「日吉らしいなあ。」
そう鳳が笑ったあたりで部長の練習再開の声がかかり、俺は肩にかけていたタオルを取りベンチに置き、その動作の続きでラケットも取る。
「ねえ日吉、もし俺に殺したい人が居るっていったら日吉俺の事をどういう風に俺を見る?」
「は?」
歩き出そうとした瞬間言われた事に反応して鳳を見ようとすれば、鳳はもう宍戸先輩に駆け寄り別の話をしていた。
「………なんなんだ?」




その後練習中延々と鳳に避けられ、言葉の意味を聞き出すチャンスを得る事が出来なかった俺は、結局鳳がその発言を言い出したきっかけとなっただろう小説を読んでみる事にした。わざわざアイツの為に共同図書館などに行く気は無かったので、手近の図書室でだが。
別に見つかる必要など特に無かったのだが、そんな奇抜な題をしているからか、小説家の方が有名だったからなのか、その本は直ぐに見つかることになる。
文庫サイズのその本は、青空をバックに少女には向かない職業と書かれていて、確認するまでも無くそのものでしかなかった。
ぱらりと表紙を開き初めだけ読んで見ると、幻想の入っていない少女が主人公の話で、題名ほど中身は奇抜ではないのかも知れないと思う。
そう言えば、買ってもらうために題名をわざわざ奇抜にする事があると聞いたことがあるなと。頭の片隅で思いながら俺はその青空が清清しいほどの青で構成されている本を読み続けた。




「鳳。」
「ん?なに?日吉。」
廊下で目が合い名を呼ぶと、まるで昨日の避けた様子などどこかに置き忘れて来たかのように鳳は俺に返事を返した。
「少女には向かない職業、読んだぞ。」
「え!早いなぁ……。」
俺は一週間くらいかかったよ。と鳳は何が楽しいのか笑う。
「それと昨日の、…あれはどういう意味だ。」
鳳の顔から少し目線をずらしながら俺が問えば、鳳はきょとんとした馬鹿面を見せた。
俺はその鳳の顔を見て眉間に皺を寄せる。
「答えろ。」
「…………。」
俺が語調を強めると鳳は視線をずらし言いにくそうに口ごもる。
「あのさ………昨日のって?」
まさか本当にどこかへと置き忘れているとは思わなかった。




「ああ、あれか。」
後頭部をさすりながら鳳はようやく思い出した昨日の出来事を思い出したのか、ばつの悪そうな表情を作る。
「ああ。訳を話せ。」
巻き込まれて気にさせられた身としてどうしてそういった馬鹿な話に巻き込まれたのかは当然聞いてもいいはずだ。
だが鳳は口を閉ざし言いにくそうに視線を落ち着き無く動かして何も言わない。
「いや、ただ………かまってもらいたかっただけって言ったら怒る?」
最終的に一歩下がって首を傾げながらその言葉を発した鳳。
「…………………………。」
理解不能と言う四文字が脳に浮かぶ。
一歩下がったてことは殴られる気がしたって事でつまり殴られるような事をした自覚があるという事だよな。と、そんなことは考え付く。
「鳳、歯を食いしばれ。」
「え゛。」






恐れるアイツに毒薬を
(殴られるとは思ってたから別にいいけどね…。)

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