水下
□紫陽花
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紫陽花
外は雨が降っている。
夕立の雨は直ぐに止むだろうからもうそろそろだろう。
普通の雨と違い、空が明るい。
この位の雨なら、あの人はきっと他の人たちと海で遊んでいるのだろう。
俺は、佐伯虎次郎と付き合っていた。
そう。付き合っていた。あくまで過去形で。
俺は純粋に好きだったから付き合っていた。
過信ではなくあの人も俺の事が好きだった。
しかし、鳴り響いた携帯。
他の人とは区別されている着信音。
突然切り出された別れの言葉。
俺達の関係はそこで終った。
紫陽花
「別れてもらいたい。」
一言だった。
俺たちの関係はたった一言で崩れてしまうほどに脆かったのだ。
「俺はもう高校生になるから、遊びはもう終らせよう。」
その言葉がどんな決意によって言われたのか、どんな考えがあって言われたかなんて分からない。
ただ、俺は馬鹿みたく意地をはって、そうですか。さようなら。と答えたんだ。
彼の息を呑む音が聞こえた気がして、俺は自分が言ったことの酷さに気付いて、今度は俺が息を呑んだ。
その後佐伯さんが何も言わずに電話を切っても俺は電話をかけ直す事が出来なかった。
さっきの事を訂正したい、何て意地を割り切って電話をする事も、ガキのようにがむしゃらに電話をかけ直す事が出来なかったのだ。
携帯を開いて、佐伯さんから来た時に鳴るメロディを一度だけ流した。
外は雨が降っていた。