水下
□タラシな君
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#タラシな君
昼間の公園には学校が終わり、既に帰宅した小学生達が遊んでいた。
そんな遊び回る小学生達の中、木陰のベンチに座って小説を読んでいる青年がいた。
青年は小説に夢中らしく、俺の存在には気付いていなかった。
このまま何気なく隣りに座れば遅れた事などうやむやになってしまうかな?
なんて考えていると、風で靡いた髪を押さえた彼と目が合ってしまった。
「なんや、カッコいい顔が腫れとるよ、タラシ男さん。」
「タラシは余計だよ。」
そんな訳で、俺の小さな目論みは呆気なく崩れてしまった。
「だから、ごめんな?」
「別に謝る必要無いんちゃう?怒っとらんし。」
「明らかに怒ってるよな……。」
その証拠に、忍足はさっきから目を合わせてくれない。
仕方がないか、と息を吐き、ベンチに寄り掛かる。
特にやる事も無かったので、ぼーっとしていると、唐突に忍足が話掛けてきた。
「佐伯、ソレやったん女の子やろ。」
「…へ?」
突然話掛けられた事と、意味が分からなかったので、間の抜けた声を出してしまうと、忍足は俺の少し腫れている頬を指した。
「ああ。」
意味を理解し、納得すると、忍足は「女の子やろ。」と繰り返し聞いてきた。
「さあ?なんで女の子限定?」
とぼけて見せても効果は無い様で、忍足は小説を読み続けている。
「(可愛げないなあ。)」
クスっと笑うと、ソレはお気に召さなかった様で、ヒヤリとした物を頬に当ててきた。
「うあっ!!」
突然のことに驚き、つい大きな声を出してしまうと、忍足は愉快そうに笑っていた。
「忍足〜〜。」
呆れた様な、恨めしい様な風に名を呼ぶと、忍足は「悪いなあ。」と笑いながら答えた。
しばらく笑い続け、ようやく落ち着いたらしく、俺にさっき当てたであろうペットボトルを投げ渡した。
「ソレで冷やしとき。」
「………サンキュウ。」
まだ腹立たしさは残っていたが、素直に礼を言うと、忍足は分かりやすく顔を赤くさせた。
゛天才″と呼ばれている時などでは決して見る事の出来ないその表情が、とても可愛くて、肩を引き唇に軽くキスをした。
「だめだろ?俺をフリーにしちゃ。」
舌をペロリと出して言うと
「アホかああああぁ!!」
と叫ばれ頭を本ではたかれた。