海部屋

□「time lag」
1ページ/4ページ


「「城之内(君)、誕生日おめでとー!!」」


「っへへ、ありがとよーみんな」


1月25日。
仲間から誕生祝いの言葉を貰い、城之内は照れくさそうにはにかんだ。


「はい、城之内君。僕ともう一人の僕からの誕生日プレゼントだよ」


「これは俺からだぜ。有り難く受け取れ!!」


そういって遊戯と本田は、それぞれ綺麗に包装された小さな箱を城之内に手渡す。


「おっサンキューvv」


「私はケーキ焼いてきたのよ。昼休みにみんなで食べましょ」


杏子が開けた箱の中には、ケーキ屋さながらの見事なバースデーケーキが納められていた。


「おぉ〜すげー!!」


その出来栄えに、皆感嘆の声を上げた。


「ホント、みんなサンキューな」


自分の誕生日を祝ってくれる仲間達に改めて礼を言う。
他のクラスメートからも「おめでとう」と声を掛けられたし、妹の静香からも祝いのメールが来た。

仲間が出来るまでは、誕生日などただ過ぎゆく日々の内の一日に過ぎず、喧嘩に明け暮れていた。
それを考えると、一層仲間達への感謝の気持ちが一層膨らみ、心を満たしていった。


俺は今、最高に幸せだ。


そのはずだった。


仲間との会話の合間に、教室の後ろの方の空席がちらりと目に入った瞬間、ちくりと胸に痛みが刺した。
昨日ならば、そこに『あいつ』が座っていたのに。
どうして今日に限っていないんだ。


幸せでいっぱいのはずの胸を刺す小さな不満。
その原因は紛れもなく『あいつ』。
城之内が今日という日を一番祝って欲しかった人物。
誕生日に好きな人に祝ってもらいたい、と思うのは誰しも同じであろう。しかし、それが叶わない。その事実が、心に蟠りを残していた。


それから昼休みに杏子のケーキを食べて、そのまま授業を適当に受けて『あいつ』を待ったが、放課後になっても姿を現すことは無かった。
誰もなくなった教室で、一日中空いたままだった『あいつ』の席を虚しく眺める。


「何だよ。結局あいつ来なかったのかよ・・ま、いっか」


仕方なく、学校を出て家に足を向ける。
冬の日没というものは早いもので、東の空はもう薄暗くなっていた。

『今日』が終わっていく。

しかし胸の中の蟠りは消えることは無く、寧ろどんどん心の中で肥大し、今日感じた幸せさえも飲み込もうとしていた。
たまらず、携帯を開いて『あいつ』に電話を掛ける。

プルルルル...プルルルル

だが、相手は一向に電話に出る様子もなく、発信音だけが
ただ虚しく彼の耳に響いた。


「くそっ・・・」


やっぱり、会いたい。
今日、この日に。
どうしても、あいつに会って・・それで・・。

意を決した城之内は、地面を強く蹴って恋人の元に向かって走り出した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ