―Novel―

□月の出る夜で剣を振るう―第一章・月の出る夜はキラーの居場所―
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ほら、思ったとおりだ。
ブルースは我慢できないお子様、なのだ。クリスは勝ち誇ったように、少し口端を持ち上げた。いくら待ってもただ、見つめているだけのクリスに痺れを切らし、ブルースはいら付いた口調で、
「『お前に言われなくてもわかっている』といっているのかい? たまには自分でしゃべろうとはしないのか?」
クリスの気持ちは、ブルースが想像したのとまったく同じだった。
今回も、自分の考えを当てられしまったクリスは、少しつまらなそうに鼻を鳴らした。

どこからか涌いてくるゾンビをどうにかしたい、という気持ちは一緒なのだが……。このゾンビの原因がわからないというのが、現実なのだ。
クリスはブルースを見るのをやめ、目を逸らした。ゾンビの液体が全て地に落ち、綺麗になった剣を鞘にしまう。
気付くと、ブルースはさも「俺は怒っている!」といっているように、頬を膨らませていた。
このまま怒らせていてもいいことは無い。クリスはしかたなく、口を開いた。
「今日は、三十八体のゾンビを……斬った」
答えてくれたのがうれしかったのか、ブルースの顔がぱっと明るくなった。
細く、キツイ目を大きく開き、大きな口を半円状に開いた、その子供みたいな表情に溜息が出た。
ふと、ペアを組んだ初日、ブルースが『俺、お前と六歳も年がはなれているのに、キラーの仕事ついたんだぜ! お前二十一だろ?』と生意気に言ったのを覚えている。
あの時は、ちょっと殴ってやろうと思ったが、今はその気さえ起きない。
……あれからもう、二年たつ。
「開始一時間で三十八体? 流石、クリス。普通のキラーは一日かけて二十体なのにな。ちなみに俺、十五体」
ブルースは人差し指を自分の鼻あたりに持ってきて、自慢げに言った。
下級キラーにしては、よく上級の動きについてこられるんだな、とそこら辺はクリスも感心していたのは事実だ。

「大したもんなんじゃないか」
言い終わるか否、クリスは、ブルースの横を通って、民の住んでいる村へと向かって歩き出した。
その後ろを、「待って!」と小走りにブルースが付いてくる。ブルースが顔を覗き込むようにして、話しかけてきた。
「どこ行くんだ、クリス。まだ月は出ているぞ? 狩りはコレからが本番だろ?」
「俺はお前と違って朝の仕事もあるんだ。寝させてくれ」
「朝の仕事!?」
大声を出したブルースの声が静かな周りに響いた。本人も驚いたようで、慌てて口を押さえてから小さく、
「すごいじゃんクリス。その歳で! 朝の仕事をもらっているキラーは、かなりの実力者って」
クリスたちは川にかかる大きな橋をわたり、村へと入った。
迷うことも無く、すぐ近くにあった一箇所だけ電気のついている木造建ての大きな建物のドアノブへと手をかける。ここが、キラーズの給料をもらう、変金所だ。
「まぁ、一時間で他のキラーズたちよりも多く稼げてるんだし、いいんだけどね」
と得意げにいうブルースを無視し、ドアを開ける。
一瞬にして人工の光が目に入ってきた。クリスに激しい目の痛みが襲ってきた。月明かりしかなかった村の外から、いきなりのこの光はきつすぎる。一回、強く目を閉じてからゆっくりあけた。視界はぼやけているが、中の様子を知ることは出来た。
五つほどおいてある、机の周りにはたくさんのごつい男たちが、剣を磨いたり、書き物をしたりしていた。彼らは、一般試験選抜のキラーズだ。もちろん、ブルースもそうだが、クリスは幼い頃からキラーになるための訓練を受けてきた、国選抜のキラーだったりする。
変金所はそんなに話し声は無く、たまに何かと何かがぶつかる音が聞こえたり、誰かと誰かの囁きが聞こえたりするくらいだった。
クリスは周りのことは気にも留めず、真直ぐと奥の窓口へ進んでゆく。コツコツ、と木の床を歩く音が、部屋の天井まで響いた。ブルースも後ろからついてきている。
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