MSCアナザ-エピロ-グ〜WINTER Ver.〜

□出産
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暫くして病室のドアが開き、
明日香達が出産祝いに駆け付けて来た。

「まさか、お前が母親とはな……」
と感心しきりに口にした明日香に、
桜子は優しく「うん。 主人そっくりの、
元気な男の子よ。」と答えた。

「姉ちゃんに母親なんか務まるのか!?」
と言った未散には、
「失礼ね!ちょっと、それどういう意味?
生れたばかりで、
私がもう母親失格だとでも言いたいの!?」
と食って掛るが、そこへ津田沼は
「母親失格だなんて思って無いよ。
寧ろ僕が率先して、
何でもしてあげたいだけだから……」
と答え、桜子を安心させた。

そんな桜子に矢切は、
「幸せそうですね、桜子さん。」と言った。

すると桜子は、
「幸せそうなんじゃなくて、本当に幸せなのよ。
愛する人と結ばれて、新しい命に恵まれる。
女として、これ以上の幸せが、
一体どこにあるっていうの…?」
と逆に矢切に尋ね、
矢切は「桜子さんの口から、
そんな言葉が出るなんて…」
と驚きを隠せなかった。

しかし誉田だけは相変らず、
「ホンマ変ったな、桜子。
まるで爪を折られて犬に成り果てた狼か、
牙を抜かれて猫に成り下った虎やないか!」
と皮肉を投げ付け、
それに対し津田沼の方が珍しく
「いい加減にしないか、誉田くん!!」
と感情を露わにするが、
桜子はそんな誉田の皮肉にさえも、
「爪や牙だなんて、
そんな物初めから無い方がいいのよ。
主人への想いに目覚めた時、
私は今迄の愚かだった自分を、
全て捨てる事を決心したの。
残ったのは、愛だけ。
それは、主人と息子を守る為の愛なの。
腕力なんかじゃない、愛こそが、
この世で一番強いものだと知ったから…」
と答えて、誉田は返す言葉さえ無くすのだった。

そんな中、今度はちとせが「ところで、
赤ちゃんの名前ってもう決めたんですか?」
と二人に尋ねた。

すると津田沼はみんなに対し、
「命名 誠」と書かれた半紙を見せた。

そして「誠。 津田沼誠。 嘘偽りの無い、
正直な人になって欲しくて決めたんだ。」
と命名の由来を説明した。

更に桜子はそれを補足する様に、
「大変だったのよ。
主人ったら、この半年間ずっと、
姓名判断の本読み漁っては、
ああでもない、こうでもないって…」
と微笑みながら言った。

そして、「ありがとう、あなた。
とてもいい名前ね、"津田沼誠"って…」
と言い、皆一様にそれに頷いていた。
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