MSCアナザ-エピロ-グ〜WINTER Ver.〜

□血よりも濃い、"愛"という絆
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一週間後。 津田沼夫婦は、
幼稚園の保護者会に参加していた。
そこには、稲毛健一の姿もあった。
健一は、教員免許と弁護士資格の両方を持ち、
教育と法に関する著書を何冊も出しており、
更には妻と共同で進学塾も経営し、
健吾・健二・健太という3人の育児にも
積極的に関与する、
「ス−パ−イクメン」として
時の人ともなっていたのだった。


保護者会自体は問題なく終ったが、
健一は他の保護者達が皆帰るのを
待っていたかの様に桜子を呼び止め、
「お久し振りですね、桜子さん。
相変わらずお美しい。
とても、新たなお子さんを宿してらっしゃる
様には見えません。」と声を掛けた。

桜子はそんな健一に対し、
「そちらこそ変ってませんね、
その上からの言い方。」と皮肉交じりに返した。

健一はそれに動じること無く、
「それにしても、貴女程の美貌をお持の方が、
何故その様な方を、御主人にお選びに?
しかもこんな御主人とさえも愛し合われて、
更に孕んでらっしゃるとは、
どうやら、御主人も相当
"お好きな方"の様ですね…」
と津田沼の方を見ながら言った。


すると桜子は「貴方は所詮、私の体しか愛さず、
私に快楽と金銭しかくれませんでしたよね?
でも主人は違います。
主人は私という、一人の人間そのものを愛し、
私に安らぎをくれたんです。
それに主人は、好き者なんかじゃありません。
そもそも私を愛するまで、
女性を知らずにいた人です。
好き者どころか、逆に私を抱く事さえ戸惑い、
抱いた後に謝る程の草食系でした。
でもそんな主人の優しさに、
私は魅かれたんです。
男に謝る事には慣れてましたが、
謝られたのは、主人が初めてでした。
私達夫婦は、恋人から夫婦になるまでは
半年も掛りませんでしたが、
友達から恋人になるまでには
7年も掛ったんです。
そんな主人でも、
誠の父親が自分じゃ無いと知っても、
私を一切責めずに赦してくれた。
主人は、そういう人です。
私を"性処理の道具"としか見なかった
貴方なんかとは、
人間としての器が根本的に違うんです!」
と強い口調で答えた。

津田沼も桜子に続く様に、
「稲毛さん、確かに妻を妊娠させて、
誠を作ったのは、貴方かも知れません。
でもそれは、
僕が妻と結ばれる前の事ですから、
今更貴方に今日迄の5年分の養育費を
求める気は、僕にも妻にもありません。
何故なら僕こそが、
誠の父親だと思っているからです。
僕の長男は、誠の弟の徹じゃありません。
妻にも僕にも、長男は誠なんです。
妻は僕と結ばれる直前に、
寂しさから貴方に体を許し、
僕は僕より前に、
妻を抱いた人が居る事に気付けなかった。
でもそれが無かったら、
誠はこの世に生を受けていませんでした。
妻から妊娠を聞かされた時も、
僕も妻も、お互いの間の子だと
思っていましたから。
ですから僕には元々、
貴方を責める資格など有りません。
寧ろ、"誠を僕達にプレゼントしてくれた"
とさえ思っています。
ですから貴方には、
決して僕ら一家の邪魔はさせません。
僕が言いたいのは、ただそれだけです。」
と静かに言った。

そして桜子は再び
「貴方の様な人がイクメンだなんて、
健太君達が可哀想です!
本当のイクメンとは、
主人の様な人の事を言うんです!
イクメン面するなら、
少しは主人を見習って下さい!
最も、貴方にそれが出来るかどうかは
解りませんけど…」と叫び、
津田沼の手を取って「帰りましょ、あなた。」
と言い、その場を後にした。


そして一人取り残された健一は、
「生れて初めて"敗北"というものを、
あの二人から教えられましたな…」
と呟くのだった。
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