MSCアナザ-エピロ-グ〜SUMMER Ver.〜

□挙式
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それから約3ヶ月半後の、12月25日。
津田沼と桜子は、挙式の日を迎えていた。

この日を迎える迄の約3ヶ月の間にも、
二人には、色々な出来事があった。

桜子は身重になっても尚、今迄と変らず、
否、以前にも増して津田沼を求め、
流石の津田沼も遂に、「桜子さん、
いくら何でも妊娠中はまずいよ…」と窘めたが、
桜子はそんな津田沼にも、
「妊娠してるから愛し合えないなんて、
誰が決めたの?
妊娠中でも、愛し合う事は出来るのよ!
体だけの関係なんて、
もう嫌と言う程経験したけど、
心だけでも寂しいの。
私にとっては、プラトニックなんてただの言い訳。
ううん、言い訳にさえなりはしないわ。
出来れば一日一度、せめて3日に2回は
あなたに抱かれていないと、
体が疼くの。
あなた以外の男(ひと)に抱かれて、
あなたを裏切る様な真似は、
もうしたくないの。
私は、心と肉体(からだ)の両方が
結ばれていないと、
愛し愛されてる事が実感出来ないの!」
と耳を貸さず、津田沼は結局、
身重の桜子の夜の相手をさせられていた。

そして桜子の実家に結婚を申込みに行った時、
津田沼は、申し訳無い気持ちで一杯だった。

既に桜子を妊娠させてしまい、
そして彼女が同じ経緯で
元彼に捨てられた事から、
きっとただでは済まないと、
彼は覚悟を固めていた。

だが桜子の両親は津田沼を快く出迎え、
彼女の父親は「君はうちの娘を、
誰よりも大切に想っているのかね…?」
と津田沼に尋ねた。

津田沼が緊張しながら、「は、はい…。
僕は桜子さん以外の女性(ひと)を、
桜子さん以上には愛せないんです……」
と頷くと、桜子の父は
「そうか、ならいいんだ。 君なら、
うちの娘を8年前の様な目には
会わせないだろう。
目を見れば解る。
君は誰よりも、澄んだ目をしているからな。
お転婆で我儘で手を焼くだろうが、
どうかうちの娘を、宜しく頼むよ…」と、
二人の結婚を承諾した。

そして、桜子の母親も、「有り難いわ、
うちの子を貰ってくれるなんて。」
と安心する事しきりだった。

その様子に、津田沼はホッとしながらも、
少し拍子抜けしていた。

きっと桜子の両親も又、彼女の行き過ぎた
お転婆振りに手を焼いていたのだろう。

まして一度は、不幸に沈んだ娘である。

そんな桜子が、
優等生の津田沼に嫁ぐという事自体が、
両親にとっては、
奇跡にも等しい喜びだったのだ。

その一方で津田沼は、
桜子を自分の実家には連れて行かなかった。

桜子が理由を尋ねると、津田沼は、
今迄話す機会の無かった
自分の過去を初めて桜子に打ち明けた。

実は彼の実家は、東京ミシュランガイドで
三ツ星を取る程のイタリアンレストランの名店であり、
二浪ではなく調理師学校を出ている事、
更に、著名な料理評論家だった母親を
15年前に癌で亡くし、
それを境に父とも不仲になり、
前述の調理師学校を卒業後、
勘当同然で実家を飛び出し、
あの大学で桜子達に出逢った事を話した。

津田沼は最後に、
「僕はもう、実家を捨てた人間だから…。
実家の方も、
僕とはもう縁を切ってるだろうし…」
と零した。

すると桜子は、「駄目よ、そんなの!
私も、あなたのお父さんに報告したいの!
"息子さんと結婚します"って、
ちゃんと会って言いたいの!
あなたはちゃんと私の実家に来て、
父さんと母さんに認めて貰ったでしょ?
それなのに私は、
お義父さんに認めて貰うどころか、
会わせてさえ貰えないの!?
何で実の父親を、そこまで毛嫌いするの?
お義父さんが居なかったら、
あなたは生まれて来なかったし、
私はあなたに出逢えなかったのよ!
それならせめて、
お義母さんのお墓参り位一緒にさせて!
お義母さんの墓前に花を手向けるぐらい、
構わないでしょ!?」と、
昔を彷彿とさせる剣幕で捲し立てた。

圧倒された津田沼は渋々頷き、
数日後、
二人は町外れのとある寺へ向っていた。
津田沼にとっては、実家を飛び出して以来、
7年振りの墓参りだった。

津田沼が幼少の時から津田沼家と親しく、
津田沼の事を"坊っちゃん"と呼んでいた
その寺の住職・蘇我は、
久し振りの津田沼の訪問を素直に喜んだ。

だが、
隣に連れている桜子が彼の婚約者である事、
更に、彼女の腹の膨らみを訊いたら、
既に妊娠している事を聞かされた途端、
蘇我は驚いて眉を顰めた。

そして、「坊っちゃん、
失礼とは存じますが、何故その様な方を
お選びになられたんですか?」
と津田沼に尋ねた。

すると津田沼は、「彼女を妊娠させたから、
仕方無く結婚するんじゃありません。
彼女と結婚しようと思ったら、
たまたま彼女の妊娠が解っただけです。」
と答えた。

彼のその表情の真剣さに、
蘇我はもうそれ以上
何も尋ねようとはしなかった。

そして二人は津田沼の亡き母・
翠の墓前に花を手向け、静かに手を合せた。

桜子は、津田沼に聞えない様に小さく、
「お義母様、どうか私たち二人を、
いえ、お腹の子供と併せて三人を、
見守っていて下さい……。
どうか、宜しくお願いします…」と呟いた。

彼女の頬を、光る物が伝った。
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