MSCアナザ-エピロ-グ〜SUMMER Ver.〜

□懐妊
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その年の夏は、
桜子にとって今迄で一番幸せな夏だった。

今迄は当り前だった
"津田沼が傍に居てくれた"事が、
今は"津田沼の傍に居られる"
という奇跡に変った喜びを、
桜子は静かに感じていた。

彼女は最早、津田沼の居ない生活など、
微塵も考えられなくなっていた。

津田沼も又、桜子の余りにも急激な
"変化"に戸惑いながらも、
そんな桜子との生活に少しづつだが
"生き甲斐"を見い出すようになっていた。

津田沼にとっては、自分以外の為に
家事や料理が出来る事が、
この上なく嬉しい事だった。

そして、「美味しい」と言ってくれる
桜子の笑顔が、
更なる喜びにもなっていた。

毎晩の様に津田沼を求める、
性に対して奔放な"肉食女子"の桜子に、
性に対して無知な"草食男子"の津田沼は
辟易するかと思われたが、
寧ろ「それで彼女が悦ぶなら」と、
桜子からの夜の求愛にも快く応えていた。
そしていつしか、
津田沼の方から桜子を求める事も
珍しくは無くなっていた。

しかし、夏の終りが近付くにつれ、
桜子の体にある異変が生じていた事に、
その時はまだ津田沼は勿論、
当の本人である桜子さえも、
まだ気付いてはいなかった。

そんな幸せ過ぎた夏が終り、
残暑厳しい9月1日。

桜子が教師として勤めている小学校は、
2学期の始業式を迎えていた。

だが、校長の決りきった長い挨拶に、
桜子は軽い目眩を起して倒れてしまう。

生徒が倒れたのならともかく、
教師である桜子が倒れたのである。

4月に赴任したばかりの新米ながら、既に
「モンスタ-ペアレントをも退ける美しきビ-ストティ-チャ-」
「校内一の頑丈教師」「華麗なる鉄人」
として名が通っていた桜子のまさかの事態に、
「三咲先生!!」「桜子先生!」と、
体育館は騒然となった。

そして桜子は担架に乗せられ、
保健室へと運ばれていった。
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