MSCアナザ-エピロ-グ〜SUMMER Ver.〜

□追求
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それから一週間が過ぎた、
7月最初の土曜の夜。

津田沼と桜子は、花火大会を見に、
江戸川の河川敷に来ていた。

そこには、番組の生中継で、矢切・由貴緒・
君津・誉田・密成の姿があった。

矢切の言った通り、誉田と密成の周りには、
特に客が群がっていた。

まるで明日香を忘れた様な君津の姿も、
二人には新鮮で意外に見えた。

矢切と由貴緒も、当り前の事ではあるが、
すっかりアイドルの顔になっていた。

そんな五人を横目で見ながら、桜子はふと
「みんな変ってくのね…」と呟いた。

それに対し津田沼は、
「桜子さんだって変ったよ。」
と桜子を見ながら言った。

「私のどこが変ったって言うの?」
と尋ねる桜子に、
津田沼は少し照れながら、
「何て言うか、女らしくなったって言うか、
綺麗になったって言うか…」と答えた。

桜子はそれを聞くと、
「ありがとう、津田沼くん…」と答え、
津田沼にそっと寄り添った。

そして、
色とりどりの花火が次々と打ち上げられ、
七夕の夜空を飾った。

桜子は、そんな花火に照らされた
津田沼の横顔ばかりをずっと見ていた。

こんなにも彼の存在が大切だとは、
あの頃は近過ぎて気付けなかった。

院も含めて7年も通った大学を卒業して、
社会の荒波の中に出て初めて、
彼女は自分の無力さ、そして認識の甘さを、
嫌と言う程思い知らされていたのだ。

そして大学時代を思い出すに連れ、
津田沼と居た時が一番、
自分らしく居られた事を思い出したのだ。

もう一度会いたいと思ったが、
大学へ再び足を運ぶのは気が引けた。

自分はもう、そこへ来てはいけない
人間の様な気がしていたのだ。

ならば、せめて声だけでも聞きたくて、
何度も携帯電話に手を伸ばしたが、
直接掛ける勇気は出なかった。

そして我慢出来ずにメールを送ったのは、
結局、5月も末の事だった。

それ迄の2ヶ月間は、
たった2ヶ月なのにも関わらず、
まるで大学で過した7年間よりも、
いや、永遠よりも長く感じた。

今迄感じた事の無い感情であった。

しかし、その感情が一体何であるのかは、
その時はまだ、
桜子自身も解ってはいなかった。

そしてあの日、
2ヶ月振りに津田沼の顔を見た時、
彼女は自分の心臓の鼓動が
はっきり聞える程、
胸が高鳴っていくのを感じていた。

その瞬間、彼女は確信したのだ。
自分が津田沼に、恋をしてしまった事を…。

あの時の津田沼への耳打ちは、
彼女なりの精一杯の照れ隠しだったのだ。

確かに、船橋に困っていたのは事実だったが、
何も津田沼に頼らずとも、
解決策はいくらでもあった筈である。

しかし彼女はそれ以上に、
津田沼と再会する理由が欲しかったのだ。

離れて初めてこんな気持ちになった事を、
彼女は心底悔やんでいた。

恋と呼べなくてもいい、ただもう一度だけ、
会って話がしたかった。

だからこそ、
あの日津田沼が来てくれた事が、
彼女は何よりも嬉しかったのだ。

粗野で横暴、
且つ世間知らずだった過去を悔い改め、
彼に相応しい自分になろうと決めたのも、
その時だった。

桜子は、花火そっちのけで
"津田沼の横顔"を見つめながら、
そんな事を思い出していた。

すると津田沼がそれに気付き、
「どうしたの、桜子さん…?」と尋ねた。

桜子はその声にハッと我に帰り、
「ううん、何でもないの…。」と答え、
津田沼の肩に凭れた。

やがて花火は終り、二人が帰ろうとした時、
矢切と由貴緒がやって来た。

矢切は神妙な面持ちで、
「桜子さん、実は私、見てしまったんです…」
と言った。

つい1週間前、まさかこの二人に
"見られた"とは気付いていない桜子は、
「見たって、幽霊でも見たの…?」
と茶化そうとするが、
いつに無く怪訝な矢切に、
「ふざけないで下さい!! 私達、お二人が
大人のホテルに入ってく所を見たんです!!」
と一喝されてしまう。

その瞬間、
他の客達が一斉に矢切の方を振り向いたが、
矢切は一切意に介さず、
更に「桜子さん、私、見損ないました!
桜子さんが、
そんなイヤらしい事する人だったなんて!
妙に綺麗になったと思ったら、
そういう事だったんですね!」
と桜子を責め続けた。

責められている理由が解らない津田沼が、
「ちょっと、急にどうしたの矢切さん?」
と落ち着きを促そうとするが、
矢切はその津田沼に対しても、
「津田沼さんも津田沼さんです!
桜子さんの事、
そんな風に見てたんですね!?」
と、非難をやめようとはしない。

そして、冷静な由貴緒に迄、
「ちょっと、いい加減やめなよ矢切!
所詮二人とも、
ただの"男と女"だったってだけじゃない!」
と矢切をフォロ−するようでいて、
寧ろ矢切よりキツい一言を
浴びせられてしまう。
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