MSCアナザ-エピロ-グ〜WINTER Ver.〜

□出産
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それから半年後の10月1日。
産婦人科に向う救急車の中に、
津田沼夫婦の姿があった。
臨月を迎えていた桜子が、
遂に産気付いたのだ。

津田沼は、
桜子の為にと思って書き貯めていたレシピを、
君津からの『本にして出版したい』
というオファーを受け、
しかもそれがベストセラーとなり、
更にはそこから若き料理評論家として、
メディアに出る事も多くなっていた。

そして立会出産を希望していた桜子は、
津田沼と共に分娩室へと運び込まれた。

陣痛が始まり、
苦しそうな表情を浮べる桜子に、
津田沼は「頑張って!」と声を掛け、
彼女の左手を強く握った。

そして桜子と一緒になって、
「ひぃ、ひぃ、ふぅ……」
とラマ−ズ法を繰り返した。

いつしか桜子よりも津田沼の方が、
顔中汗だくになっていた。

それから何時間経った事だろうか。
二人が精も根も尽き果てそうになった頃、
突如大きな産声が響き渡り、
看護師が
「おめでとうございます!
よく頑張りましたね。
3500gの、元気な男の子ですよ!」と、
無事男児が生れた事を告げた。

その瞬間、
津田沼は感極まって言葉が出て来ず、
号泣してしまう。

逆に桜子の方が、そんな夫を気遣う様に、
「どうしたの、あなた?
急に泣き出したりなんかして……」と、
あっけらかんとした様子で言った。

津田沼は顔中を涙でクシャクシャにしながら、
「だって、ずっと苦しそうな顔してたし、
万が一の事があったらどうしようって、
心配で、心配で……」と、
ずっと桜子を案じていた事を告げた。

桜子はそんな津田沼に、
「大丈夫よ。 あなたが傍にいてくれたから、
不安も痛みも全然感じなかったわ。
本当よ。 赤ちゃんの顔を見た途端、
そんなの全部どっかに飛んでったもの。
今からでも、二人目が欲しいくらいよ。
ありがとう、あなた……」と、
無事出産を終えた事と、それは
"津田沼が居たからこそ"だという感謝を口にした。

津田沼は涙を拭いながら、
「そんな事無いよ、君のお陰だよ。
良かった、君も赤ちゃんも無事で、
本当に良かった……」と答えた。

そして津田沼は、
生れたての我が子を抱き抱えると、
又しても涙が溢れ出し、桜子はそれを見て、
穏やかな笑みを浮べるのだった。

"新たな命"の誕生に、
二人はこれ以上無い喜びと幸せに包まれていた。

やがて赤ん坊は新生児室に移され、
桜子も病室に移されていった。

津田沼も桜子と共に、病室に同行した。
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