MSCアナザ-エピロ-グ〜WINTER Ver.〜

□矢切の恋
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そしてその日の夜。
津田沼がバイトしている、大学内の喫茶店にて、
彼らの忘年会が行われていた。
そしてその中には、矢切の姿もあった。

矢切は、君津がいつもの様に
明日香を追い掛け回しているのを見つけると、
明日香を遮る様に立ち、
「待って下さい、君津さん!」と叫んだ。

すると君津は、「何だ、矢切さんか…。
俺の明日香への想いを邪魔する者は、
例え誰であろうと容赦はしないぞ!
それとも、俺のサインが欲しいと言うなら、
話は別だが…」と、
卒業後はアナウンサ−として
マルテレビへの入社が決っている為か、
少し調子に乗りながら、
矢切を追い払おうとした。

しかし矢切はそれに動じず、「違うんです!
私、君津さんの事が好きなんです!」と、
君津への想いを本人の前で口にした。

その余りに突然且つ意外な出来事に、
「え――――――――っ!!??」と、
全員固まって動かない。

そして君津さえもが言葉を無くしている中、
矢切は更に、
「私、いつも明日香さんを
追いかけてばかりいる君津さんが、
初めは正直怖かったんです!
でも、そんなお二人を見ているうちに、
君津さんが本当は、見た目で人を判断しない、
ひたむきな人なんだと思えたんです!
そして気がつくと、
いつも君津さんの姿を目で追う様に
なっていったんです…」と続け、
君津に好意を持った経緯を彼に告げた。

矢切の告白に君津は、
「矢切さん、君の気持ちは嬉しいが、
生憎俺は明日香を…」と断ろうとするが、
矢切は君津の言葉をかき消す様に、
「わかります!
君津さんの気持ちも確かにわかります!
でもそれで、
明日香さんが振り向いてくれましたか?
むしろこうして、
迷惑がってるじゃないですか!
でも私は違います!
君津さん、
私はあなたじゃなきゃダメなんです!
お互いの立場の違いもわかってます!
それでも私、もう止められないんです!
お願いです…、君津さん……、
それでも、私じゃダメなんですか?」
と尚も告白を続け、
遂にはこらえ切れなくなって、
立ち尽くしている君津の胸の中で
泣き出してしまう。

そしてとうとう明日香も、
「キミタク、私からもお願いだ。
矢切を幸せにしてやってくれ。
あんたに相応しいのは、私じゃ無い。」と、
とどめの一言を君津に言い放った。

その一言に、
君津は一瞬頭が真っ白になりかけたが、
やがて言葉を選ぶ様に、
「俺も薄々、気付いてはいたんだ。
明日香の気持ちが、俺に無い事に…。
でも、それを素直に認める事が怖くて、
逆に尚更執拗に、
明日香を追い掛けていたのかも知れない。
俺は今迄、
愛されるより愛する事ばかり考えて、
人の気持ちなんて考えもしなかった。
それが、ただのゴリ押しだとも知らずに…。
ごめんよ明日香、そして矢切さん。
明日香がそう言うなら、もう仕方が無い。
これ以上明日香に迫っても、
明日香が迷惑するだけだ。
だからと言って、
今すぐに明日香を忘れるなんて事も、
俺には出来ない…。
矢切さん、こんな俺でもいいのか?」
と矢切に尋ねた。

君津のその言葉に、矢切は静かに頷いた。

そして君津は明日香に対し、
「さよなら、明日香…」と呟いた。

明日香も又、君津に対して
「ああ。矢切の事、大切にしてやれよ。」
と返した。

君津にとって、
完全に明日香を忘れ去る事など、
不可能な事なのかも知れない。

だが矢切の事が嫌いなら、それでも尚
明日香を追い掛け続けていた筈である。

それにこうして見てみると、当り前だが、
矢切の方が遥かに見た目は秀でている。

君津は、今初めて自分を客観視し、
今迄の明日香との事を思い出していた。

確かに明日香は振り向くどころか、
寧ろ迷惑がるばかりであった。

そして今、決定的に明日香に振られ、
そして矢切に告白された。

君津は、"今ここで、自分が矢切を拒んだら、
今の自分と同じ思いを、
矢切にもさせてしまう。
それは、いくら何でも可哀相だ"と思い、
戸惑いながらも矢切の手を握った。

矢切もそれに応える様に、君津に寄り添った。

明日香はそんな二人を見て、
心から手を叩いた。

一つの恋が終り、
そして新たな恋が始まった瞬間であった。
 

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