MSCアナザ-エピロ-グ〜WINTER Ver.〜

□血よりも濃い、"愛"という絆
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それから更に5年が過ぎ、
津田沼と桜子の間には
"諦めずに徹底してやり遂げる
人間になって欲しい"
という気持ちから名付けられた"徹"と
"努力し続ける人間になって欲しい"
という気持ちから名付けられた
"努"という双子の男児が生まれ、
兄となった誠は5才になって幼稚園に入園し、
そして男児ばかり3児の母となった桜子は、
更に4人目を身籠っていた。

そんなある日。
誠が、幼稚園から泣きながら帰って来た。
母である桜子が驚いて訳を尋ねると、
誠は「"ぼくのパパは、
ぼくのホントのパパじゃない"っていわれた…」
と答えた。

桜子は「えっ!?」と更に驚き、
「そんな事、一体誰に言われたの?」
とその出所を訊いた。
すると誠は、「稲毛のケンちゃん…」と、
幼稚園のガキ大将的存在の同級生の名を
口にした。 その"稲毛"という姓に、
桜子は消し去っていた筈の記憶が蘇って
背筋が凍った。

誠の同級生、稲毛健太の父・稲毛健一は、
桜子が大学時代に
キャバ嬢をしていた頃の上客で、
桜子とも何度も肉体関係を持っていたからだ。
教師となる直前迄続けていた
キャバ嬢を辞めてからも、
健一からは個人的に気に入られて
愛人同然となっており、
実は津田沼と愛し合う三日前にも
健一と密会をしていたのだ。
津田沼と相思相愛になってからは、
連絡を取る事も会う事もしなくなったので、
自分はもう夜の世界や健一とは
完全に切れたつもりで居たのだ。
"きっと、あの時だ…。
私があの時、あの人に体を許して居なければ、
こんな事には…。
でもそうしていたら、
誠は存在しない事になる…。
息子のいじめっ子の父親が、
息子の本当の父親かも知れない。
息子といじめっ子が、
腹違いの兄弟かも知れない…"
桜子はそう思うと、
青褪めて言葉が出て来なくなった。

それを誠の方が逆に心配し、
「どうしたの、ママ?」と声を掛けると、
桜子はそこで我に返り、誠を諭す様に
「いい、マ−ちゃん? そこに座って、
ちゃんと聞くのよ。
確かに、マ−ちゃんの元を作ったのは
パパじゃ無いわ。
でもね、パパはそれでも、
ママを責めたりしないで、
"マ−ちゃんはパパとママの子だ"
って言ってくれたの。
マ−ちゃんがママのお腹の中にいる時から、
誰よりもずっと楽しみにしてくれてたの。
マ−ちゃんが産まれた時も、
パパが一番喜んでくれたのよ。
今日までだって、
マ−ちゃんの幼稚園のお弁当を
いつも作ってくれてるのは誰?
パパでしょ?」と言った所で、すかさず誠が
「だってママは、おりょうりがへただから…」
と言った。 桜子はそれに
「そんな事、今は言わなくていいの!」
と突っ込むと、話を戻し
「パパがマ−ちゃんとトッちゃん・
ツ−ちゃんを比べたり、
叱った事が一度だってあった?
マ−ちゃんを叱るのは、
いつもママだったでしょ?
マ−ちゃんが"欲しい"って言った物は、
3DS LLもWii UもPS Vitaも、
何だってパパが買ってくれたでしょ?
PS4も、今度買ってもらうんでしょ?
マ−ちゃんはそんなパパを、
ホントのパパだと思えないの?
パパ以外の一体誰が、
マ−ちゃんのパパだっていうの?」
と誠に訊いた。

誠は再び泣きながら、
「ごめんなさい、ママ…」と桜子に謝った。
桜子はそんな誠に「謝んなくていいのよ。
マ−ちゃん又、
ママに叱られたと思ってるんでしょ?」
と訊いた。 頷く誠に対し桜子は、
「いい?マ−ちゃん、これだけは解って。
マ−ちゃんもトッちゃんもツ−ちゃんも、
みんな間違い無くパパとママの
大切な子供達なの。
マ−ちゃんだけがトッちゃん達とは
違うなんて事は、絶対無いから。
それに、マ−ちゃんはお兄ちゃんでしょ?
お兄ちゃんが泣いてたら、
トッちゃんもツ−ちゃんも泣いちゃうわよ?
それにもうすぐ、弟がもう一人増えるのよ?
お兄ちゃんだったら泣かないの。
ママはね、マ−ちゃんのママになれた事が、
心の底から嬉しいの。
ありがとう、マ−ちゃん。
パパとママの所に、産まれて来てくれて…。」
と諭し、誠の頭を撫でた。

そして誠が「うん。」と頷いたちょうどその時、
玄関のチャイムが鳴り
「ただいま−!」と津田沼が帰って来た。

誠はすかさず「パパ−!」と津田沼に駆け寄り、
桜子は津田沼に
「お帰りなさい、あなた。」と声を掛けた。
津田沼が誠を抱っこしながら
「どうしたの、一体?」と問うと、桜子は
「実はね、今日誠が幼稚園でいじめられたの。
"誠のパパは、本当のパパじゃ無い"って。
そしてそのいじめっ子の父親が、
誠の本当の父親らしいの…」と答えた。
津田沼が誠をトイレへ行かせながら
「えっ…?」と桜子に再び尋ねると、桜子は
「まだ、はっきり確信した訳じゃ無いのよ。
でも、おそらくそうだと思うの。
その子の父親は、
私が昔キャバ嬢をしてた頃の上客で、
その頃私は、
その人に何度も抱かれてたから…」と答えた。

それを聞いた津田沼は、
不安がちに「桜子さん、
君は今更血縁を選んだりしないよね?
あの時僕が言った事、
ちゃんと信じてくれてるよね?」と尋ねた。
すると桜子は「勿論よ。 っていうか、
あなたこそ、あの時あれだけ言ったのに、
何で未だに"さん付け"なの?
ママ友からも訊かれるのよ。
"津田沼さんのご主人は、
奥さんをいつも"さん付け"で呼ぶなんて、
ご主人が奥さんに逆らえない弱みでも
握られてるんですか?"って。
私、どれだけ恥ずかしいか…。
でも、"それも含めてあなたなんだ"って、
今は思えるけど…」と答え、更に
「あなたが子供達を全て分け隔て無く
育ててくれて、本当に感謝してるわ。
甘やかし過ぎる事も有るけど、
あなたは"世界一のイクメン"だと、
私は思ってる。 あなたが居る限り、
私は今更本当の父親なんかに
負けたりしないわ。 今日迄も明日からも、
誠の父親はあなただけなんだから。
あの人は私を抱くだけ抱いて、
それで出来た誠をあなたに押しつけたなんて、
今はもう思わない。
寧ろ、誠をあなたにプレゼントしてくれたと、
感謝さえしてるの。
数ヶ月後には又子供が増えるけど、
これからも宜しくね、あなた。
私も今迄以上にあなたを愛し続けるし、
正真正銘の"良妻賢母"になれる様に
頑張っていくから…」と続け、
津田沼に寄り添った。

そして二人がキスをしようとしたまさにその時、
トイレから出た誠が二人を目撃し、
「あっ!パパとママ、
またイチャイチャしてる!」と叫んだ。
すると二人は忽ち赤面し、桜子は誠に
「こら!子供は見ちゃいけません!」と叫び、
津田沼は照れながら夕食の支度を始めた。

血縁だけをもって親子の基準を測るのならば、
津田沼と誠は本当の親子では無いであろう。
しかし彼らの間には、
血縁よりも濃いものがある。
そしてそれがきっと、
"愛"という名の絆なのだろう…。
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