MSCアナザ-エピロ-グ〜WINTER Ver.〜

□出産
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桜子から津田沼へ 続き


私は元彼の子を流産してから、
誰にどれだけ激しく深く突かれても、
いくら大量に中に出されても、
一度も妊娠しなかったから、「私はもう、
産めない体になってしまったんだ…」
と思って、避妊の事なんて全く考えずに、
ただひたすら気持ち良くなりたくて、
あなたとの行為に明け暮れてたの。
あなたの"男の証"が私の一番奥に
放出される瞬間だけが、
私が"女に生れた幸せ"を感じられる
瞬間だったから…。
だから、
私があなたの子供を身ごもったと知った時、
私の脳裏に浮かんだのは、
喜びよりむしろ、あの時の悪夢だった…。
『あなたは彼とは違う』、
それだけを自分に言い聞かせてたけど、
「もしかしたら」「万が一」という気持ちが、
どうしても拭えなかった…。

そしてどうしようもなくなって、
あなたに事の全てを打ち明けた私に、
あなたが告げたのは、
私へのプロポ−ズの言葉だった。
その時私は、嬉しさよりも、
そんなあなたを例え一瞬でも、
疑ってしまった自分が情けなかった。
恥ずかしかった。

そんな私が、あなたからのプロポ-ズを
受けてもいいんだろうか…。
私は本気で悩んだわ。
はたから見てたら
"なんて贅沢な"って思うでしょうね。
夢が叶った瞬間のはずなのに…。


それでもあなたは私に、
『君の事だけを愛してる』と言ってくれた。
『心の傷に気付けなくて…』と、
謝ってさえくれた。
謝るべきだったのは、私の方なのに…。
私は、涙が止らなかった。
そして私は、
「これは"あなたの子供を産みなさい"
というお告げなんだ」と思ったの。


私は、あなたに出逢って救われた。
きっと私は、あなたに出逢う為に、
涙の雨に打たれて、哀しみの河を越えてきた。
そして孤独の海に流されて、
力尽きて溺れそうになっていた私を、
あなたは灯台の灯りの様に、
優しく照らしてくれていた。
だから私は、決定的に道を踏み外す様な事は
せずに済んだの。

でも、出逢ったばかりの頃の私は、
何もかもが幼くて、
あなたを"ただ優しいだけの便利屋"
としか見ていなかった。
あなた程度の男(ひと)なら、
星の数程いると思ってた。

私があなたと結ばれるなんて、
有り得ないとかいう以前に、
考えた事さえ無かった。

あの頃の私は、あなたの優しさに
ただ甘えてばかりいたくせに、
いざとなると、
その優しさが物足りなくなったり、
うっとうしく感じたりして、
本気で好きになって傷つくのが怖かったから、
他の誰かとの快楽に逃げてばかりいた。
そしてあなたの隣に戻る度、
何も知らないあなたの笑顔が、
どんな刃よりも鋭く私の心に突き刺さって、
苦しかった。
それともあなたは、
全てお見通しだったのかも知れない。
そう思うと尚一層、
あなたの隣にいるのが辛かった。
それなのにあなたは一度だって、
私を責めたりしなかった。
いっそ激しく罵られた方が、
どんなに楽になれるだろう…。
そう思うと私はいたたまれなくなって、
あなたを避けた事もあった。
その時もあなたは、
無理に私を追い掛けたりしなかった。
どうして追い掛けて、
抱きしめてくれなかったの?
もし私が他の誰かのものになっても、
あなたはただ遠くから、
笑顔で祝福してくれるだけなの?
結婚式から、私を奪おうとは思わないの?
喉まで出掛かったその言葉も、
あなたのいつもの笑顔の前では
消えてしまった。

そして、夜一人で眠りに就く時、
私はいつも、
言い様の無い心の空白に襲われたの。
その空白を埋める為に、夜の街で、
何人もの男達に体を委ねたりもした。
元彼にこっぴどく捨てられた時もそうだった。
次から次へと男達に体を差し出し、
腰を振っては、男の証を注入され続ける日々。
「本当はあなたにこうされたかった」
そんな気持ちをぐっと堪えながら、
私は男達の慰み者にされていた。
いつしか私は、
「これは私が女に生まれた宿命なんだ」
と思って、諦めてしまっていた。
そして、それに慣れてしまった自分自身にも、
ほとほと嫌気が差していた。
そんな自己嫌悪の反動が、
昼間の私を尚一層強気で気丈でおてんばで、
高慢で傲慢で高飛車にさせていたの。
昼間は「女豹」「悪女」と呼ばれて
恐れられた私も、
夜になればただ快楽を求めて腰を振るだけの、
淫らな雌豚へと成り下がる。
でも、誰と床(とこ)を共にしても、
その空白は埋まるどころか、
むしろ広がる一方だった。
体だけの関係なんて、
所詮それ以上でもそれ以下でもない。
誰も私の事を、心から気遣ってはくれない。
彼らにとっては、むしろ私の方が
"都合のいい便利屋"でしかなかった。
そして悔しさと情けなさが頂点に達した時、
私の脳裏に浮んだのはあなたの事だった。
「あなただったら、
こんな時何て言ってくれただろう…」なんて、
そんな有りもしない事を、
私は思う様になっていた。
あなたは"ただの便利屋"なんかじゃ無かった。
むしろあなただけが、
私を心から気遣っていてくれたんだと、
その時初めて解ったの。
そして、"ただの友達に過ぎなかった"
と思ってたあなたは、
私にとって"かけがえの無い存在"
になっていった。
出会いの遅さを悔んだ事もあった。
でも、「こんな私でも、
人を愛せる気持ちが残ってたんだ」
と解って、それが本当に嬉しかったの。
打算でしか生きて来なかった私に、
あなたは一切の見返りを求めなかった。
その時私はあなたから、
"無償の愛"というものが、
確かに存在する事を教わったの。
私の今までの人生で、
"奇跡"だと言える出来事は、一つだけ。
それは、あなたに出逢えた事。
私が今までしてきた事で、
"正しい"と胸を張って言える事は、ただ一つ。
それは、あなたを愛した事。
それ以外、何も出来ない私でも、
それだけは、誰にも負けない自信がある。
寧ろそれは、負けちゃいけないと思ってる。
ただ、それ故に、あなたへの想いが強すぎて、
どうせ私の"独りよがりな片想い"
なんじゃないかと思ってた。
だから私は、あなたからプロポ-ズされた事が、
むしろ本当は怖かったの。
"こんな私に、そんな資格があるのか"
って、ずっと不安だったから…。
あなただって、きっと不安だったはずなのに、
それでも私から逃げる事無く、
ちゃんと向き合ってくれたのに、
そんなあなたから逃げてたのは、
むしろ私の方だった……。
そんな私でも、
あなたは見捨てずにいてくれた。
励ましてくれた。 支えてくれた。
そして、愛してくれた…。

私は、あなたへの想いが『愛』だと解るまで、
あなたに"本当の自分"を隠して生きてきた。
本当の私は、決して"鉄の女"でも、
まして"ロボット"なんかでも無い。
寧ろ全く正反対の、夢見がちの恋愛体質で、
いつも男に頼ってばかりで、
捨てられては、また別の男にすがって、
そんな生き方を繰り返してたの。
でも、あなたに初めて出逢った時、
"あなただけは、他の人とは違う"と思った。
だからこそ、あなたにだけは、
そんな私の"本性"を悟られ、見透かされ、
見限られるのが怖かったの。
私は、あなたといつまでも
友達でいたかったから、
あなたと逢う時だけは、
"色恋とは無縁の存在"を演じ続けてきたの。

でも、いくら自分を偽り続けたところで、
ただいたずらに時間を浪費するだけだった。
"もし、あなたと二人きりの夜を迎えられたなら、
今度はもう、自分に嘘はつかない"って、
あなたが好きだと解ってから、
ずっと思い続けてた。
そしてあの夜、
私はあなたに全てを晒け出したの。
本当の私は、あんなに淫らで、まるで、
年中発情しっ放しの雌犬の様で…。
あなたに軽蔑される事さえ、私は覚悟したわ。
それでもあなたは、私を一切拒む事無く、
そんな"淫らな私"の奥底に眠ってた、
もっと本当の"純粋な私"を呼び起してくれた。
そして私は、あなたに抱かれながら、
生れて初めて、嬉し涙を流したの…。

きっとあなたと私は、正反対の様で、
本当は似た者同士だったのね。
だからこそ、こんなにも強く、
魅かれあってしまったんでしょうから…。

もしもあなたを愛していなければ、
こんなに悩んだり、苦しんだり、
不安になったりしなかった。
でもその代わり、
こんなに幸せな気持ちにも、
きっとなれなかった…。

『人は所詮、独りきりでしか
生きては行けない』と言った人がいる。
『人は独りでは、生きる事はおろか、
生れて来る事すら出来はしない』
と言った人もいる。
そのどちらが本当だとしても、
孤独の真っ暗闇の中にいた私に、
手を差し延べてくれたのは、あなた。
それだけは、間違い無い。
少なくとも、私はあなたといる時だけは、
孤独を打ち消す事が出来たし、
あなたを愛し、そして愛された事で、
それがはっきり確信出来た。
「私には、あなたしかいない」と…。

あなたは"一番大切な事"を、
私に気付かせてくれた人。

あなたという名の幸せに気付かずに、
手放してしまう前に、気付けて良かった。
そして、私の愛した人が、
私を愛してくれた人が、
あなたで本当に良かった…。

そして私は、私の全てを受け止め、
支え、理解し、愛してくれた、
あなたに付いて行くと決めたの。


あなたに心から伝えたい言葉は、2つだけ。

ありがとう、そして、愛してる…。
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